Image:Lucid
| 以前はここまで自動車が「おおっぴらに」値下げされることはなかったように記憶しているが |
これもまたテスラが破った「古い慣習」、そして新しい慣習のひとつである
さて、自動車メーカー各社の第1四半期報告にて「EV減速」トレンドが明確になってきていますが、今回はEVスタートアップ、ルシードが「3万ドル近くの値引きを行う」ことが明らかに。
対象となるのはルシードが発売する「高級」を標榜したEV”エアー”であり、この開始価格は69,900ドルなので、30,000ドルの値引きとなるとかなりの額ということになりそうです。
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いったいなぜルシードは巨額値引きを行うのか
今回ルシードが値引きを行う理由は「在庫過多」だからだと報じられ、よってこの値引きが適用されるのは”在庫車のみ”。
まずはすべてのグレードについて5,000ドルの値引きが適用されますが、グレードや居住地によって「追加で得られる」値引き額が異なり、たとえばロサンゼルスに住んでいる場合だと「グランド ツーリング」モデルでさらに15,000ドルの「エアー」クレジット、さらに9,650ドルの「プロ」クレジットを利用が可能となるため、これらを合計すると29,650 ドルの割引となるもよう。
加えて「長期ローン金利」も引き下げており、これは72ヶ月で2.99%というものだそうですが、現在アメリカでは金利の上昇によって高額商品の販売が伸び悩んでいるとされるので、けっこう有効な対策かもしれません。
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さらに韓国キアも「EV9」を大幅値下げ
これに加えて報じられているのが韓国キアがEV9を大きく値下げするというニュース。
EV9はまだ発売されて日が浅く、そして北米におけるSUVオブ・ザ・イヤー、2024年のワールド・エレクトリック・ビークルとワールド・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した評価の高い電気自動車ですが、なんとこのタイミングにて7,500ドルもの値下げが実施されると報じられています。※キアのクルマは以前からデザイン性が非常に高く、海外で見かけたりすると思わず振り返ってしまうことがある
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ただしこの7,500ドルには若干の注意が必要で、まず先月には3,750ドルの割引が適用され、そして5月からは生産がジョージア州ウェストポイントに移されることで連邦税額控除の一部対象となり、これによってさらに3,750ドルの控除が可能となり、これらを合計すると7,500という計算になるわけですね。
よって、実際には7,500ドルが値下げされるということではありませんが、それでもキアはなんとかしてEV9の価格を引く下げたく、そのために様々な行動を取っているということになりそうです。
なお、キアはヒョンデの「下」に位置するブランドであり、主にコンパクトカーを得意としていましたが、最近ではプレミアムセグメントにも進出しており、その一部がヒョンデと競合する中、ヒョンデよりも優れた販売台数を記録するケースも。
しかしながら現地では「普及価格帯ブランド」という認識が強く、上位モデルの販売加速には心理的な障壁があるといい、そしてキアはその障壁を回避するために価格の調整を行っている可能性もありそうですね(EV9は現地では54,900ドル~73,900ドルという価格設定であり、けっこう高額なクルマである。加えて”9”という数字はキアでは最上位を意味する)。
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これまで自動車の「大幅値引き」は一般的ではなかったが
たとえ価格流動性が高い米国といえど、これまで自動車を「大幅に値引いて売る」という行為はさほど一般的ではなく、というのもこれは需要を先食いするばかりか、そのブランドのイメージを著しく毀損する可能性があるため(これによって中古車試乗での価値も大きく下がる)。
よってほとんどの場合、値引きを行う場合はクローズドにて実施したり、値引きのかわりに低金利を適用したり、なんらかのサービスやオプションを付帯していたわけですが、こういった慣習を破ったのがテスラで、2022年末に「需要と供給のバランス」を理由に大きく価格を引き下げたことがあり、これに追随したのが中国の新興EVメーカーたち。
そしてフォルクスワーゲンなど既存自動車メーカーは「値下げ競争に参加しない」とコメントしていたものの、競合がどんどん値下げする中で”たまらず”値下げを行ったといいう事件があって、ここから自動車販売における大っぴらな値下げが一般化したようにも記憶しています。
実際のところ、直近でもフォードがマスタング・マッハEの価格を大幅に引き下げることで「6倍の速度で売れた」とコメントしていて、これを見てもわかるように消費者は価格に対して非常に敏感であることが再確認できたというのが現在の状況でもあり、そのため自動車メーカー各社が今後注力するのは「いかに安く売れるクルマを作るか(そしてその状況でいかに利益を出すか)」なのかもしれません。
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