| フェラーリはクルマを売るよりも「ブランド価値を維持・向上させること」を考慮している |
フェラーリは「中古市場で好まれない」仕様のクルマを作らない
さて、フェラーリは非常に幅広い純正カスタムの選択肢を持っており、顧客にそれらを利用してもらうことで車両1台あたりの利益を最大化しています。
それは先日の決算発表の場においてもあらためて確認されており、今後もフェラーリは車両パーソナライゼーションを強化する意向を示しているものの、今回テレグラフが報じたところによれば、「一部でカスタムを制限する」可能性があるもよう。
フェラーリCEO、ベネデット・ビーニャ氏はこう語る
これはフェラーリCEO、ベネデット・ビーニャ氏が語った内容として報じられ、同氏によれば「あまりに派手なデザインを防ぐために事前に色の組み合わせを決める可能性がある」。
フェラーリがそもそもオプションや(テーラーメイドによる)パーソナライゼーションを強化してきたのは「フェラーリの顧客は特別な人々が多く、よってほかのクルマとは異なる特別な仕様を求める人が多く、そういったリクエストに応えるため」というルーツがあると理解していますが、しかし近年においてはそれに加え「車両1台あたりの利益を最大化できるから」だとも考えています。
フェラーリは非常に特殊な自動車メーカーであり、まずは市販車ビジネスが「その会社の本質」ではなく、フェラーリの本業は「あくまでもF1はじめとするモータースポーツ」、
映画「フェラーリ」では、アダム・ドライバー扮するエンツォ・フェラーリが「彼らは売るために(レースを)走るが、我々は走るために(クルマを)売る」と語っているとおり、フェラーリはもともとレーシングカーファクトリー及びレーシングチームであり、レースを走る資金を稼ぐために顧客へとクルマを販売し、顧客に「フェラーリのクルマが欲しい」と思わせるために「レースで勝つ」ことを目指しているわけですね。
よってフェラーリ本社はけして広告を打たず、それは「レースで勝つことのみが唯一の広告」だと捉えているからだと考えていますが、「クルマ(市販車)を売る」ためにもう一つ重要なのが”希少性”。
モータースポーツにて優れた成績をあげ、その結果フェラーリのクルマがバンバン売れるようになったとすると、フェラーリの希少性が一気に下がってしまい、その価値を失ってしまうことに直結することとなり、これはフェラーリとしては「避けたい事態のひとつ」です。
フェラーリは以前から生産台数を抑えており、古くは(エンツォ・フェラーリの)「顧客が求めるよりも1台だけ少なく作る」という限定モデルの方針(これにより〜9台、という数字が決められるようになった)、その後のルカ・ディ・モンテゼーモロCEOのいう「フェラーリは手の届かない美女のような存在なのです」という言葉につながるのかもしれません。
実際のところ、フェラーリの顧客や投資家もそれを望んでいて、「生産台数が少なければ少ないほど」いいという考え方を持っていて、そのためフェラーリが「増産計画」を立ち上げると一気に株価が下がったりするわけですが、「少ない台数のほうが好ましい」と考えられている自動車メーカーはおそらくフェラーリくらいのもので、しかしフェラーリとて利益を稼ぐ必要があるため、「どうやって利益を稼ぐか」と考えた場合、行き着く先はどうしても「車両一台あたりの単価を引き上げる」ということになるわけですね(車両販売のほか、モータースポーツからの収益やライセンスビジネスなどからの収入もあるが、やはり現時点で大きな利益比率を占めるのは市販車販売部門である)。※2024年のフェラーリの販売台数は89台しか増えていないが、これは意図的に生産台数を抑えたものだと思われる
フェラーリはブランドイメージを守らねばならない
かくして「1台あたりの利益単価を向上させる」手法として有効に機能するのが「パーソナリゼーション」ということになりますが、これについて顧客の求めるままに「なんでもやってしまうと」フェラーリのブランド価値を下げてしまうことがあり、よって今回フェラーリが検討しているのが「カスタムの幅を制限する」。
現在、おそらくはほとんどすべての人が「フェラーリ」と聞くと「レッド」を想像するかと思いますが、それくらいフェラーリのイメージは固定化されており(他にそういった自動車ブランドはないと思う)、さらには(SF90 XXといった例外はあるものの)「エレガントさを損なうので市販車には大きな別体式リアウイングを取り付けない」「(これも例外はあるが)ホイールは基本5本スポークのスター形状ベース」といった方針からもわかるとおり、フェラーリはカラー以外にもいくつかの統一された”法則”をもっています。
こういった法則がフェラーリをフェラーリたらしめているわけですが、これを”より厳格に”守るために導入されるのが今回の「カスタム規制」なのかもしれません。
「我々が内部で考えているのは、(色の)組み合わせを事前に定義することです。ブランドの価値やアイデンティティを守る必要があるため、そこには注意しなければならなりません。奇妙なクルマを作ることは絶対にありません。顧客をブラックリストに載せることを考えているわけではありませんが、特定のオプションを制限する可能性があります。いくつかの組み合わせは、次の潜在的な買い手に好まれない、または愛されないことがあります。」
フェラーリCEO ベネデット・ビーニャ
なお、フェラーリはこれまでにもカスタムを制限していると思われる例があり、そのひとつが「ボディカラーにピンクを選べないこと」。
これはフェラーリのイメージと「ピンク」とが合致しないことが理由だとされていますが(明確に語られたという記録はない)、そのほかにも「車両に個人名を入れる」ことも(これまでに例がないので)NGなのだと思われます。
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そのほか、フェラーリはブランド価値を守るために「車両を適切に扱わないオーナー」に対しても厳しく警告を行い、レプリカの製造に対しても非常に強い対応を行っているとされますが、あの手この手によって「ブランド価値と資産を守り、最大化する」ことを考慮しており、今回の「カスタムの制限」もその一つなのだと思われます。
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参考までにですが、フェラーリの限定モデルにおいて、(今では信じられませんが)F40はすべてレッド(ロッソ・コルサ)のみにペイントされて工場から出荷され、F50でも基本はレッド、そしてシルバーやイエロー、ブラックが一部の顧客に許されたにとどまるとされ、その後のエンツォフェラーリでも「顧客によっては選べるカラーが制限された」と言われていますね。
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参照:CARSCOOPS, Telegraph