
| ■ ポルシェを救ったカイエン、ブランディングの足かせに? |
一部市場においては「ポルシェはSUVとセダン」ブランドである
2000年代初頭、経営難だったポルシェを救ったのがSUV「カイエン」の登場であるのは周知の事実。
そしてその後も「マカン」などのヒットにより、SUVはポルシェの屋台骨を支えてきたわけですが、その「SUV依存」が今、”ポルシェ”というブランド価値の低下と利益率の悪化につながっているという、耳を疑うような報道が出ています。
■ ウォール・ストリート・ジャーナルが指摘:「利益が減っている?」
米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、
- ポルシェの株価は2025年に入ってから21%下落
- フェラーリは逆に8%上昇
という対照的な動きを見せており、その理由としてポルシェの「量販SUV路線」が槍玉に挙げられています。
「マカンSを買える予算だったはずの70,000ドルが、今やベースグレードしか手が届かない。だったらフル装備のBMW X3のほうが魅力的に見える。」
─ WSJ─
この内容を補足すると、「ポルシェの車両は現在欧州でしか製造されておらず、よって米国で販売するとなると関税の影響を受けて高くなり、米国で生産される他社製SUVのほうがお買い得になっている」、そして物価高の影響で家計が圧迫され「今までは背伸びしてポルシェを購入していた層がポルシェの購入を控え、より身近なクルマを選ぶようになった」。
もちろんポルシェもこの傾向を理解しており、関税による値上げを最小限にとどめようとした結果、利益率も下がってしまったというわけですね。
■ 「ドイツ製=プレミアム」の価値が揺らぐ?
ポルシェのCEOであるオリバー・ブルーメ氏によると、
「アメリカ市場の顧客にとって、我々が“ヨーロッパ(ドイツ)製”であることは非常に重要だ。」
しかし実際のところ、カイエンはスロバキア(ブラチスラヴァ工場)製であり、「純ドイツ産」ではなく、この事実がポルシェ=プレミアム”というイメージを損なっている可能性もあると指摘されています。
そしてスロバキアで生産しているのは「ドイツ本社工場だけでは人気ナンバーワンモデルであるカイエンの需要をカバーできず、よって他の工場でも生産し、”大量に作って大量に売るため”」。
つまり利益を得ようとしたがためにその価値を損なってしまい、「ツケが回ってきている」ということなのかもしれません。
反面、今回対比が示されたフェラーリは「イタリア製」にこだわり、そしてブランドイメージの希薄化を避けるため、いかにSUVに対する需要が高くとも「全生産台数の一定割合に抑え、ブランドイメージを守る」ことに徹しています。
そしてこの「ブランドイメージ」について補足しておくと、欧州や北米、日本という従来のマーケットではポルシェの「スポーツイメージ」が非常に強いものの、ポルシェの主要市場のひとつ、中国では「ポルシェの正規輸入が開始されたのはカイエンの発売とほぼ同時」「パナメーラは欧州ではなく中国ではじめて公開された」という事情もあって「ポルシェ=SUVとセダン」というイメージが非常に強く、さらにはモータスポーツ人気もさほど高くはないために「ポルシェ=スポーツカー」という認識がいまひとつ高まらないとも言われています。
こういった事情もあり、「SUVを売れるだけ売る」という方針を採用してきたポルシェの戦略が同社の未来を脅かしているとも指摘されているわけですね。
■ SUVの“中身”はVWと共通?プラットフォーム問題も浮上
もうひとつ、ブランドの独自性を損なっているとされるのが親会社フォルクスワーゲンとの技術共有。
これはカイエン発売当初から指摘されていたことではありますが、その後に登場したマカンも同様で、かつ現在フォルクスワーゲングループとポルシェのCEOとは「同一人物」です。
モデル | 共有するプラットフォーム/技術 |
---|---|
マカン EV | Audi Q6 e-tron/A6 e-tronと同じPPE採用 |
カイエン | VWトゥアレグ/ランボルギーニ・ウルスと兄弟車 |
こういった「ポルシェのSUVモデルが“他ブランドと似すぎている”ことも、ポルシェといったブランドのアイデンティティの希薄化につながっているという指摘がなされています(さらにはほかブランドのプラットフォーム共有モデルのほうが圧倒的に価格が安い)。
■ まとめ:「SUVで儲かる=ブランド価値が下がる」?
現在のポルシェは以下のような矛盾を抱えているように見え、「ポルシェというブランドとは何か?」が今、ツェッフェンハウゼンのエンジニアたちに問われているわけですね。※それでも、ポルシェが作るどんなクルマにも911に通じる走りのDNAがあることもまた事実である
- SUVは“売れる”けれど、“高級ブランドイメージ””スポーツカーブランドイメージ”が下がる
- SUVは「競争過多」なカテゴリであり、競争に勝とうとすれば利益率は下がり、株価も低下
- プラットフォーム共有で“独自性”が薄れる
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