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ジャガー、500名の管理職に対し早期退職を提案。「クルマに求められる本質的価値」ではなく「デザインやコンセプト」を1500万円で売ろうとする戦略とは

ジャガー コンセプト00
Jaguar

| 新しいジャガーが対象とする顧客は「パワートレーンが何であるかを気にしない |

ただしジャガーの「読み」が計画通りにゆくかどうかは全くわからない

さて、JLR(ジャガー・ランドローバー)は、これまで「2024年末にレンジローバーEVを発売、2026年までにジャガーのEVを投入する」計画を立てていたものの、既報の通り現在はこれを「市場や顧客の需要に最適なタイミングにまで延期する」としています。

そして延期のタイミングについては「2030年までにすべてのブランドにおいてEVバリエーションを提供します。プラットフォームや戦略は柔軟に設計されており、市場と顧客に最適なタイミングで導入していきます」と述べているものの、現時点で具体的な時期は「完全に未定」という状況。

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JLR、過去10年で最高益を出した矢先に管理職500名を削減

そして今回はイギリス国内で約500名の管理職に対し早期退職(自発的退職)を提案していると報じられ、これはわずか2カ月前、JLRが2025年度決算で過去10年で最高の利益を計上し、10四半期連続の黒字を達成したことからすると驚きの事実ではありますが、最新の四半期では10.7%の販売減少を記録したこと、そして今後「アメリカが導入した関税」が継続する可能性が高いことを考慮するとやむをえないことなのかもしれません。

そしてジャガーはこの早期退職実施につき、直接的な「関税の影響」のほか、上述の「EV発売延期」によって販売するクルマがなくなってしまい収益が大幅に減少することを理由に掲げていて、つまりは将来に対して非常に大きな不安を抱えているということになりそうですね。

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Image:Jaguar

新しいジャガーの価格は軽く1000万円オーバー、アートと音楽に敏感な富裕層をターゲットに

現在ジャガーはそのラインアップのほとんどを「販売終了」としているため、これらを復活させることは現実的ではなく、唯一残されたF-Paceも近いうちに販売が終了されると言われるので「現実的に売るクルマがゼロ」になるのは時間の問題。

その後は「まったく新しいジャガー」へとラインアップが入れ替わることになりますが、これはブランド再構築とともに行われ、ジャガーのマネージングディレクター、ロードン・グローバー氏によると、このリブランディングによって「既存顧客の85%が戻ってこないだろう」。

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Image:Jaguar

ジャガー「新しいブランド戦略によって、我々は既存顧客の85%を失うでしょう」。なぜそこまでしてブランドを変えようとするのか、その危険な賭けの真意とは
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その理由としては「ジャガーがこれまでとはまったく異なる方向性へと舵を切ったから」であり、ジャガーは今後デザイン性と芸術性を重視したラグジュアリーEVブランドへと生まれ変わる予定だとされ、販売価格も「(米国でいうところの)6桁」、つまり10万ドル / 約1,500万円以上になることが確定的です。

同じくグループ内のレンジローバー・サブブランドを率いるマーティン・リンペルト氏はこう語り、もう「クルマ以外のなにか」になろうとしていることがわかりますね。

「ジャガーは“エクスベルランス(活力)”、“モダニズム”、“プログレッシブ(先進性)”を体現するブランド。芸術、現代音楽、革新的な若者文化との親和性を持つ存在になる」

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Image:Jaguar

ジャガーがクルマというよりも「アート」「建築物」的なコンセプトカー、”タイプ00”を発表。この定規で引いたようなデザイン、鮮やかな色使いは市販モデルにも反映されるようだ
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「エクスベルラント・モダニズム」——芸術と表現の世界へ

なお、「エクスベルランス」はひとつのキーワードだと考えてよく、2024年11月に発表された新たなブランド・アイデンティティそのものが「Exuberant Modernism(エクスベルラント・モダニズム)」。

このコンセプトは「想像力に富み、大胆で芸術的であること」を掲げており、従来のジャガーが持っていた「Grace, Space, Pace(優雅さ、空間、速さ)」といった価値観とは完全に決別した内容です。

簡単にいうとジャガーは「クルマ」を離れて「芸術作品」に移行しようと考えているのだと思われますが、世間一般的に芸術作品とは「よくわからないもの」でもあるため、このジャガーのコンセプトが「理解されないのも理解できる」といった感じですね。

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Image:Jaguar

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パワートレインはどうでもいい? 購入動機の第13位

なお、ジャガーが考える「タイプ00を購入する新世代の顧客」は、もはやパワートレインを気にしないといい、グローバー氏によれば「100,000ドル以上のグランドツアラーを購入する層は、デザインやインテリアを重視しており、動力性能は“13番目の優先事項”にしか過ぎない」。

よって新しい顧客にとって「パワートレーンはガソリンだろうがエレクトリックだろうが関係はない」ということになりそうですが、ジャガーが推進しようとしている「おそらくは近代自動車市場最大のブランド変革」の行方がどうなるのかは非常に気になるところで、そしてその結果は「他のブランドも取り入れようとするほどの大成功」、あるいは「自動車史に残る大失敗」のどちらかの「両極端」なものになるであろうと考えています。

そしてこの変革は「走行性能」「実用性」といった自動車の基本的要件ではなく、「デザイン」「イメージ」という付加価値によって行われるもので、この点においては他に例を見ないチャレンジなのかもしれません(つまりクルマそのものではなく、イメージやデザインを1500万円以上で売ろうとしている)。

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