>フェラーリ

フェラーリ四輪駆動の進化:フェラーリの4WDはけして「おまけ」ではなく「革新的技術」。FFの革新からF80の電動フロントアクスルまで

フェラーリ四輪駆動の進化:フェラーリの4WDはけして「おまけ」ではなく「革新的技術」。FFの革新からF80の電動フロントアクスルまで

| フェラーリAWDの「グリップ」する歴史:408 4RMの挑戦 |

フェラーリは「速く走るため」にあらゆる可能性を模索している

フェラーリは最新ハイパーカー「F80」にて4WD技術を採用していますが、これに対しほぼ同時期に発表されたマクラーレン「W1」は後輪駆動を堅持しています。

両者とも「コンマ1秒でも速く走るため」に一切の妥協を排して設計されたスポーツカーではありますが、それぞれアプローチが異なるのは非常に興味深い事実かもしれません。

「4WD」は元来オフローダー用の技術として開発される

四輪駆動(AWD)は、もともと悪路でのトラクションを必要とするオフロード車用の技術として開発されていますが、やがて(オフローダー以外の)クルマにおいても、ダイナミックな性能帯域を広げる上でその価値が明らかになっています。

実際のところ、悪路走行を前提としたものとはいえ、「トラクションを最大化する」という目的のもとに開発されているため、この目的はオンロードを走るクルマにとっても共通性を持っているとも考えられるわけですね。

そしてフェラーリのトッププライオリティは「速く走ること=レースで勝つこと」であり、そのためにはありとあらゆる手法を試し、(状況が許す限り)取り入れてきたという歴史を持ちますが、フェラーリ初のAWD量産車であるFFの登場は2011年。

DSC00684

そして現在、ル・マン24時間レースで3度の優勝を飾った499Pや新型ハイパーカーのF80といったモデルは(FFとはまた異なるシステムを持つ)電動フロントアクスルを採用しており、前例のないハンドリングレスポンスを実現しています。

プロジェクト中断から学んだ教訓:408 4RM

実は、フェラーリは(FF登場の)何年も前からAWD技術を実験しており、当時フェラーリのテクニカルディレクターだった故マウロ・フォルギエーリは、F1でのAWDの可能性をしばしば検討していたと言われるほど。

そういった実験の中でも特筆すべきコンセプトが408 4RM(ruote motrici:イタリア語で「動輪」の意、よって4RMは4輪駆動)で、この408 4RMは328由来の4.0リッターV8エンジンを搭載して2台のみが製造されています。

1

Image:Ferrari

AWDシステムはセンターデフと油圧カップリングを使用しトルク配分はフロント29%:リア71%に固定されており、あくまでも後輪寄りのトルク配分を持つことに。

しかしフェラーリ副会長ピエロ・フェラーリは、このシステムの重量増加がフェラーリの核心的なエンジニアリング哲学に反するとして1991年にプロジェクトを中止させたという悲劇の歴史があり、ここでいったん「4WDのフェラーリ」はお蔵入りとなってしまいます。

フェラーリ
フェラーリと四輪駆動の歴史:初の4WD試作車「408 4RM」、初の4WD市販車である「FF」から最新ハイパーカー「F80」まで、進化するAWD技術について考える

| フェラーリは1980年代、すでに4WD技術を取り入れてラリーで戦うことを考えていたようだ | そしてフェラーリにとっての「4WD(AWD)」技術のあり方も時代とともに変わってきている フェラーリと ...

続きを見る

FF(Ferrari Four):革新的な「PTU」による軽量化

この「重量」という課題を克服し、AWDシステムを再構築したのが、2011年に登場したFF(Ferrari Four:四輪駆動、四座席の意)に組み込まれた極めて革新的なシステム。

DSC06350

  • PTU(Power Transfer Unit): FFはV12エンジンをフロントアクスル後方に配置することで、エンジニアはフロントアクスル前方に第2のコンパクトなトランスミッション(PTU)を配置可能に
  • 軽量化と構造: PTUは事実上2速ギアボックスとして機能し、2つの電子制御油圧多板クラッチ(各前輪に1つ)を介して前輪にパワーを分配
  • 機械的リンクの排除: この構成により、センターデフや前後を繋ぐ機械的なプロペラシャフトが不要となり、通常の四輪駆動システムの約半分の重量に抑えられる
DSC06045

この独創的なソリューションにより、FFは低重心化と最適な前後重量配分を維持しながらもE-diffやF1-tracトラクションコントロールシステム、そしてAWD制御エレクトロニクスを統合することが可能となっていますが、さらにFFはV12フェラーリとして初めてデュアルクラッチ・ギアボックスを採用しており、ステアリングのマネッティーノには「Ice/Snow」設定が追加されるなど、オールラウンダー的性格がいっそう強くなっています。

SF90と499P:電動AWDによるパフォーマンスの頂点

FFの哲学はGTC4Lusso(2016年)に引き継がれたものの、408 4RMが長年残した課題を真に引き継いだのが1000馬力を誇るSF90ストラダーレ。

SF90は、AWDを備えた初のミッドシップ・フェラーリ量産車であり、フィオラノでのラップタイム1分19秒(ラ・フェラーリより0.7秒速い)、そしてこのタイムを実現したのが新しい「電動フロントアクスル」を備える4WDシステムです。

L1009272

フェラーリ
フェラーリ296スペチアーレの「フィオラノ・サーキット」ラップタイムは「フェラーリのロードカーでは歴代2位」。そもそもフィオラノ・サーキットとは?そしてランキングは?

この記事は音声(合成)でもお楽しみいただけます | フィオラノ・サーキットのラップタイムをランキング形式にて「ロードカー」「F1」「レーシングカー」別に紹介 | やはり「XX」プログラム車両は別格の速 ...

続きを見る

  • ハイブリッド構成: 4.0リッターV8エンジンに3基のエレクトリックモーターとの組み合わせ
    • 1基はエンジンとギアボックスの間に
    • 2基はフロントアクスルに搭載され、左右の前輪をそれぞれ駆動
  • 機能: このハイブリッド構成により、ギアチェンジ間のトルク抜けとターボラグを埋め、俊敏性を高めるトルクベクタリング、そして四輪駆動を提供
【今さら聞けない】AWDと4WDの違いとは?その境界線は意外と曖昧だった【動画】
【今さら聞けない】AWDと4WDの違いとは?その境界線は意外と曖昧だった【動画】

| AWDと4WDはどこが違う? | 結局のところ、「明確」な定義はないようだ さて、ときどき言われるのが「4WD(4輪駆動)とAWD(オールホイールドライブ=全輪駆動)との違い」。 たとえばトルクス ...

続きを見る

フェラーリはこのシステムで最も重要なのは「フロントタイヤがコーナーの出口で車体を引っ張る」ことであるとも述べていますが、これは「後輪トルクベクタリング(Eデフによる)によって車両の向きを変える」に加え、カーブでの脱出速度を高めるための策ということになりますね(そしてマクラーレンは、この”前輪で引っ張る”理論を捨ててでも、軽量化を優先し、さらに4WDに対するビハインドを他の技術でカバーしようとしていて、それぞれの考え方の違いが面白い)。

L1009260

マクラーレン、新型ハイパーカー「W1」をシルバーストンで公開。1,275馬力のPHEVでフェラーリF80に挑む【動画】
マクラーレン、新型ハイパーカー「W1」をシルバーストンで公開。1,275馬力のPHEVでフェラーリF80に挑む【動画】

| マクラーレン「W1」、シルバーストンで初の走行映像公開 | 実際のデリバリーに向け「開発」が順調に進む マクラーレンが新型ハイパーカー「W1」を発表してからはや1年。 これまで具体的な情報は少なく ...

続きを見る

プロサングエとF80:AWDとドライビングダイナミクスの両立

プロサングエ:ファミリーカーの形をした真のフェラーリ

そしてSF90とはまた異なる4WDシステムを採用するのがプロサングエ。

プロサングエは、市場が四輪駆動車に求める外観に近いかもしれませんが、その実はFFとGTC4Lussoによって確立された設計の上に成り立っており(つまり一般的なオフローダーやSUVが採用する4WD方式ではない)、車高は高くなったもののダイナミクスは「真のフェラーリそのもの」。

L1009141

プロサングエもまたフロントミッドシップエンジン、リアトランスアクスルを備え(そしてノンハイブリッド)、PTUは一対のクラッチを作動させて前輪にパワーを送ります。

AWDシステムは意図的にリアバイアスに設定されており、期待されるフェラーリ特有のダイナミズムを維持しているのが特徴で、上述の通りこれはFFやGTC4ルッソ同様の構成です。

DSC06348

ちなみにですが、かつて「(フェラーリの要件定義を満たさないとして)4WDを却下した」ピエロ・フェラーリ副会長ではあるものの、現在プロサングエを「日常の足」としており、つまり「プロサングエは4WDであってもフェラーリそのものである」ということなのかもしれません(同氏はフェラーリ愛に関する様々なエピソードを持っており、ある意味ではもっともフェラーリを愛する人物であると思われる)。

エンツォ・フェラーリの息子がオーダーしたプロサングエが公開!亡き父が乗っていたフェラーリと同じカラーを再現し、ボディサイドにはあえて「エンブレムなし」
エンツォ・フェラーリの息子がオーダーしたプロサングエが公開!亡き父が乗っていたフェラーリと同じカラーを再現し、ボディサイドにはあえて「エンブレムなし」

| フェラーリのエンブレムをサイドに付けなかったのは「それがなくてもフェラーリはそれとわかる存在だから」 | 一方でカーボンルーフ、ダイヤモンドカットによるホイールなど現代風のディティールも さて、フ ...

続きを見る

F80:レーシングDNAを凝縮した電動AWDの極致

そしてフェラーリのAWDへのコミットメントは、新型スーパーカーのF80で最高潮に達します。

  • コンペティションDNA: F80は、ル・マン優勝を果たした499Pのレーシング技術を受け継いでいる
  • 電動フロントアクスル: 2基のフロントマウント式エレクトリックモーター、インバーター、冷却システムを備え、高度なトルクベクタリング機能を提供
  • パワーと軽量化: フロントアクスルには合計281馬力が送られ、インバーターはわずか9kgという驚異的な軽量化を実現し、エンジンニアリングの奇跡と称されている

【驚異の減速力】フェラーリF80が時速200kmからわずか98mで停止。100km/hからでもSF90ストラダーレ比で「1.5m短縮」
【驚異の減速力】フェラーリF80が時速200kmからわずか98mで停止。100km/hからでもSF90ストラダーレ比で「1.5m短縮」

Image:Ferrari | 約1,200馬力のハイブリッドスーパーカーに搭載された“止まる力” | このブレーキ性能は、F1マシンのようなサーキット由来のテクノロジーによって実現される フェラーリ ...

続きを見る

なお、F80に積まれるハイブリッドシステムはSF90のそれよりも499Pに近いとされ、実際にバッテリーサイズ等の「数字上のスペック」においてもSF90との差異があるもよう(それだけF80がレーシングカー寄りということになる)。

こういった「フェラーリと全輪駆動の歩み」、そしてその考え方やモデルごとのシステム構成要件の違いを見るに、AWDはもはや「おまけ」ではなく、現代のフェラーリが驚異的なハンドリング性能とドライビング・エンターテイメントを両立させるための核心的な技術だということもわかりますね。

フェラーリ
フェラーリのハイブリッド技術の進化|F1「KERS」からラ・フェラーリ、SF90、F80にいたるまでまでの系譜とは

| フェラーリはハイブリッドシステムによって「より速く、より効率的に」走れるようになっている | F1での「KERS」から始まったフェラーリのハイブリッド化 フェラーリのハイブリッド技術は、2009年 ...

続きを見る

あわせて読みたい、フェラーリ関連投稿

フェラーリ
なぜフェラーリはエンツォ・フェラーリ存命中には話題にあげることすらできなかった「4ドア」を発売したのか?プロサングエの開発秘話が公開される

| 一方、エンツォ・フェラーリは「4シーターのファン」であった | フェラーリはプロサングエをけして「SUV」とは呼んでいない さて、フェラーリの前CEO、セルジオ・マルキオンネ氏は「もしフェラーリが ...

続きを見る

フェラーリ
フェラーリはその性能同様、インテリアの進化にも注力してきた。フェラーリが「スーパーカーの内装において常に業界のリーダーである」理由とは

| フェラーリは独自の理念に基づき、ドライバーが運転に集中できる環境を整えてきた | そして現代では、同乗者にもエモーショナルな関わりを持たせ、運転していなくとも「特別な体験」ができるように配慮されて ...

続きを見る

【フェラーリV12誕生秘話】いつどうやってフェラーリのV12エンジンが誕生したのか?
【フェラーリV12誕生秘話】いつどうやってフェラーリのV12エンジンが誕生したのか?その背景と歴史とは

| 「12気筒を作るべきです」──すべてはこの言葉から始まった | エンツォ・フェラーリとV12エンジンとの「はじまり」はおおよそ様々な文献で一致している さて、フェラーリと言えばV12、V12といえ ...

続きを見る

参照:Ferrari

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

->フェラーリ
-, , , ,