| ただし欧米でも取引価格が上がっていないわけではなく、感じ方の差は市場構造の違いにあると考えられる |
むしろアメリカのほうが「えげつない」とボクは思う
さて、日本ではランドクルーザーの納車待ちが「4年」にも達し、そのほかの人気モデルでも納車に1年ほどかかると言われていますが、これによって「中古車の価格が新車価格を大きく上回っている」として海外にて大きな話題に。
Nikkei ASIAによると、トヨタ・ランドクルーザーの価格は一次(ZXで)1705万円に達しており、さらにはアルファード(エグゼクティブラウンジS仕様)が新車価格の775万円を超えて中古車平均価格(2022年式)が825万円となったほか、ハリアー、カローラクロスにおいてもグレードによっては新車と中古車との「価格逆転」が起きている、とのこと。
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一体なぜこんなことに?
なお、中古車と新車との価格現象はひとえに「新車の生産が遅れて納車も進んでいない」「納車の待ち時間が長くなっている」ためで、つまりは少しでも早くそのクルマを手に入れたいと思う人が、より高い金額を積んで中古車を購入しているという事実を意味し、これによって中古相場が上がってしまっているわけですね。
トヨタは「納期目処一覧」を公開しているものの、具体的な納車時期を示すことができないクルマも多く、発表されたばかりの新型シエンタも「詳しくは販売店にお問い合わせください」という表記となっています。
ちなみにですが、この新型シエンタも中古市場では「新車以上」の価格にて販売されており、「HYBRID Z(2WD)」だと、新車価格291万円のところ、350万円にて販売されている個体も見られます。
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もちろん新車の供給がままならないのは、かねてより続くマイクロチップ(半導体)不足、そしてロックダウンが断続的に行われる中国でのパーツ生産が滞っていること、そしてロシアのウクライナ侵攻による素材の供給不足などが原因ですが、ホンダはこれを回避するために「脱中国」を掲げた新サプライチェーンの構築にも乗り出していますね。
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そしてNikkei ASIAの記事によると、トヨタの受注残は「約100万台」あるといい、これは国内生産台数の約1/3に相当する大きな数字。
そしてこの受注残のうち、少なくない割合が「国内、もしくは海外への転売目的」だと思われ、そして購入したクルマを国内の中古市場へと放出すると、日本人ユーザーだけではなく「新興国の富裕層向けに輸出しているバイヤー」が高い値をつけることも多いといい、とくにハリアーのような国内専用モデルだとその傾向が顕著だと報じられています。
こういった理由にて「新車よりも中古車のほうが高くなる」サイクルが構築されているわけですが、こういった”中古車のほうが新車よりも高い”現象が海外にて広く報じられ、「いったい日本はどうなってるんだ・・・」と捉えられているようですね。
じゃあ海外市場ではどうなのか
海外市場がこういった日本の中古車事情を「奇妙だ」と考えているということは、海外では納車待ちが起きておらず、車両の取引価格も上がっていないのかと考えてしまうのですが、実際はそうではなく、単にその構図が異なるだけで、新車価格は「大きく」値上がりしているもよう。
どういうことかというと、日本の場合は、正規ディーラーが新車価格にプレミアを乗せて売ることは「タブー」であり、これをやると社会的に抹殺に近いところまで追い込まれると思います。
これは「平等」「お金儲けは卑しい」「カネでものごとを解決するのはよくない」という考え方が浸透しているためで、たとえば欧米では当たり前となっている、テーマパークの「順番をお金で買う」というシステムが日本では批判を受けるのと同じかもしれません。
ただ、欧米とくにアメリカでは「ビジネスはビジネス」と割り切っているので、そして価格流動性が日本に比較して遥かに高く、つまり需要と供給によって価格が大きく変動します。
そしてアメリカの場合は、新車の正規ディーラーが、消費者に対して直接プレミア価格で人気車を販売するという手法がまかり通っていて、コルベットやシビック・タイプRやハマーEV、その他人気モデルの価格がとんでもない価格にて販売されているわけですね(そのため、新車ディーラーにでは、販売台数が減っているのに利益が極端に増えている)。
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もちろん自動車メーカーも、こういった状況について把握しており、あまり良くは思っていないようですが、アメリカでは販売者の立場が非常に強いということもあって強く口出しはできず、消費者に対するポーズ、そしてなにか手を打ったという痕跡を残すためにディーラーに対して通知を出すにとどまっているようにも見えます。
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米で問題化する「希少車や限定車の転売問題」。GMが転売に対してペナルティを課すと発表するもやや焦点がずれているようだ
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米国では正規ディーラーが希少車、限定車の「買い占め」を行うことも
さらに有名なのは、限定車や生産終了となるモデルを正規ディーラーが「買い占める」という行為で、たとえばダッジ・バイパーの生産が終了すると発表された際には、バイパーのメーカー在庫の99%に相当する135台をすべて買い占めたディーラーも。
そのほか、ランエボやWRX STIのファイナルモデルを買い占めたり、レクサスLFAを買い占めた正規ディーラーの存在もよく知られており、そしてそれらディーラーはプレミア価格にて顧客へと新車販売を行っているわけですね(リスクを冒して買い占めたものの特権でもあるが、正規ディーラーという立場を利用し、不当に買い占めたのであれば問題でもある)。
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つまり、アメリカでも車両の取引価格は上がっているものの、それは「新車ディーラーがプレミア価格で消費者に販売する」という形となっていて、日本の「新車販売は希望小売価格にて行われ、その後放出された中古市場でプレミア価格が乗る」というのとは事情が異なります。
よって、アメリカ人からすると「新車が足りなくなると、新車の価格が上がるのが当たり前」、しかし日本では「新車が足りなくなると、中古市場での相場が高くなるのが当たり前」であり、そのためアメリカ含む海外の人々からすると「なんで中古車のほうが高いんだ・・・」と考えているのかもしれませんね。
参考までにですが、限定車の販売において、日本だと「抽選」が行われることがほとんどではあるものの、アメリカではこれまでの購買実績に応じて車両が振り分けられることが多いように思われ、このあたりも日本とアメリカとの「平等」に対する考え方の差がある部分だと思います(日本においても、商人間であれば「実績に応じ」というのはごく当たり前だが、商人と個人間において、それは平等だと捉えられないことが多い)。
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参照:NIKKEI ASIA