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| “EV専用”だったフィアット500がガソリン車として復活 |
なぜフィアットは「500」にガソリンエンジンを積んだのか
「EVがガソリン車を駆逐する」。
かつて多くの自動車メーカーがそう語っていた時代がありましたが、現実はそう簡単ではなさそうです。
というのもポルシェはEV専用計画の一部を見直すと明かし、フィアットも方向転換を進めると発表していますが、その象徴とも言える存在、そして最新の例が新型フィアット500”ハイブリッド”です。
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フィアット「500e」が売れずにまたまた生産停止期間を延長。しかしフィアットは500eを切り捨てずに改良のため1億ユーロを投入、さらにはハイブリッド化して再発売する計画も
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EVだけでは売れない?500eの販売不振が方針転換のカギに
この流れについては補足が必要で、まず現行の新型フィアット500(通称500e)は、2020年に登場した際に完全電気自動車(EV)のみのラインアップにて構成され、当初は「内燃機関なし」で販売されていたわけですね。※ガソリン車をEV化したわけではなく、EV専用として設計されておりガソリンエンジンの搭載を最初から考慮していない
しかし、このピュアエレクトリックモデルの”絶望的な”販売不振により生産中断が繰り返され、フィアットは約1年前にハイブリッド仕様の投入を発表する事態となっています(売れなかった理由は明白で、航続距離が短く、にもかかわらずガソリン車の倍の価格設定を持っており、その価格であればちょっとしたガソリンエンジンの高級車が買えたから)。
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そして今回発表されたのが「価格を抑え、かつ利便性を向上させた」ハイブリッドモデルで、2025年11月から本格生産に入ることがアナウンスされているのですが、これは当初の計画にはまったく存在しなかったモデルであり、しかしフィアットは「それでも500のハイブリッド版を発売しなくてはならなかった」というところまで追い込まれていた事実を指し示しています。
- 生産地:イタリア・トリノのミラフィオーリ工場
- 年間生産台数:最大10万台を想定
- 名称(欧州仕様):フィアット500 トリノ(500 Torino)
新型500ハイブリッドのスペック(予想)
現在、フィアットは技術的詳細を公表していませんが、現地メディアの報道から以下の内容が推測されています。
- エンジン:1.0L 直列3気筒 マイルドハイブリッド
- 最高出力:約70馬力(旧型500ハイブリッドやパンダと同じ)
- トランスミッション:6速MT(マニュアル)
- 駆動方式:FF(予想)
なお、ここで重要なのは「マニュアル・トランスミッションを有する」ということで、これはハイブリッドカーとしては非常に珍しく、ここは一部では大きく評価がなされるのかもしれません(ただしこれは走りを意識したがためのものではない)。
デザインはこれまでのフィアット500eとほぼ共通、EVとの違いは?
外観はEV版500eとほぼ同じで、給油口の位置や形状も(500eの充電ポートと)同一です。これはEVベースのボディを流用している証拠であり、EV専用車の限界を逆に示しているとも考えられ、もともとEVとして設計された車体のため、エンジンの搭載には物理的制約があるのだと推測されます。
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「アバルト500」のガソリン復活はなし
なお、往年のファンが期待する「アバルト版」はハイブリッドとして登場する計画はなく、(今のところ)アバルトはEV専売方針を維持していて、その理由としては以下の通り。
- マイルドハイブリッド(70ps)ではアバルトの基準に満たない
- EV専用車体のため、より大きなエンジンの搭載が困難
- 欧州の排ガス規制強化により、高出力ガソリン車の存続が難しい
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アバルト「今後、ガソリン車を作ることはありません。ハイブリッドもNOです」。完全なるEVブランドとして機能し、フィアットのチューニングとSUVへ集中することが宣言される
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ガソリン回帰は潮流? ポルシェに続きフィアットも動く
興味深いのは、今回のフィアットの判断が自動車業界における単独の動きではない点で、こうした動きから見えてくるのは、「EV一本化には無理がある」という現実。
特に価格帯の安い小型車セグメントでは、(EVバージョンが非常に割高になるため)内燃機関の継続が重要な役割を果たしています。
- ポルシェ:EV専用として設計していた将来モデルに対し、内燃機関版を再検討中
- BMWやトヨタ:ハイブリッド戦略の継続強調
- メルセデス・ベンツやアウディ:EV販売目標の引き下げ
まとめ:EVからの揺り戻しが始まった?
新型フィアット500ハイブリッドの登場は、すなわち「EV時代の終焉」を意味するものではありませんが、多様なニーズに応えるためには選択肢が必要だという市場からの明確なメッセージであることは確かです。
そしていま、“電動化”という言葉の意味が、100%EVだけを指す時代は終わりつつあるのかもしれません。
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