| テスラにとって電気自動車の製造販売はひとつの「手段」でしかない |
そしてテスラはより大きな目的を果たすため、新たなる一歩を踏み出すであろう
さて、ここ最近大きな変化が見られるのがテスラそしてイーロン・マスク氏の行動です。
まずは昨年を通じて(車両の)大幅な値下げと値上げを繰り返していますが、これらを持ってしても販売台数の回復と利益率の確保を見込むことはできず、2024年第1四半期では販売台数につき、アナリストが予想した449,000台を下回って387,000台へと”およそ2年ぶりに”減少しています。※営業利益率の予想は8.7%、しかし実際は5.5%であった
これに先駆け、イーロン・マスクCEOは「先行きが不確実な状況の中で、全速力で進むことはできない」とも述べており、つまりは未来を読みづらい状況において(ギガファクトリーの建設など大規模なものではなく)様々な、そしてすぐに実行できる施策を試したものの、その効果が得られなかったというのが昨年の状況であったのだと考えられます。
-
テスラCEO、イーロン・マスクが経済の先行き不透明性に懸念。「不確実性の高い将来に全速力で突っ込むことは出来ない。増産には慎重にならざるを得ない」
| とくに高金利を懸念しており、ローン残高の多いアメリカの一般的な家計について「クルマを買う余裕がなくなる」とも | 以下に値下げを行えど、金利上昇分によって「実質的な購入価格は変わらない」 さて、先 ...
続きを見る
しかし今年春になって状況が一変
しかしながら今年の春になって状況が一変し、まずは「モデル2として知られていた廉価版EVの開発停止」が報じられ、これによって株価が大きく下落しています。
その理由としては「中国の新興EVメーカーが価格競争を仕掛ける中でテスラの既存モデルに割高感が生じて販売に苦戦しており、この状況を大きく変える救世主がモデル2」であると見られていたためで、モデル2計画のシャットダウンに関し市場が大きく失望したわけですね。※モデル2の開発にあたっていたチームは「自動運転技術」分野へと配置転換がなされている
さらにその後に出てきたのが「従業員の10%程度を解雇する」という報道であり、これによっても株価が下がって年初からおおよそ30%ほども下落してしまうことに。
-
テスラが人員削減を行う可能性が報じられる。従業員一人当たりの売上にてテスラはフォードとGMに抜かれ、不確実な2024年に向けて何らかの対応の必要性も
| テスラは2024年を乗り切るに際し「このまま手をこまねくわけにはゆかない」 | おそらく2024年はテスラにとってこの数年でもっとも厳しい年になりそうだ さて、テスラが「人員削減を検討しているので ...
続きを見る
これはもちろん「それだけテスラの内情が苦しい」という事実を表しているためですが、テスラの先行きに不安を感じた投資家たちが売りを急いだと考えて良いかと思います。
これらに加え「モデル2のかわりにロボタクシー(サイバーキャブ)を8月8日に発表する」というテスラからの公式コメントが出され、直近でも「(大きな利益を生むと信じられていた)スーパーチャージャー事業を閉鎖する」という報道がなされたことで「いったいテスラは何をしようとしてるんだ・・・」と思われているのが現在の状況かと認識しています。
-
テスラが「スーパーチャージャー事業を閉鎖し、管理者2名、そしてその下の500名を解雇」との報道。同事業部は新たな、しかし大きな収益源になると見られていたが
| 加えてテスラはスーパーチャージャーを核とした娯楽施設を展開予定であったが | 一体テスラに何が起きているのか さて、ここ何度かにわたり幾度かの「一時解雇(レイオフ)実施」が報じられるテスラ。今回は ...
続きを見る
テスラはEV事業からソフトウエア事業に方針をシフト?
ただ、こういったネガティブな話題を吹き飛ばしたのが「現行モデルをベースとした廉価版EVの早期投入」「中国(北京)訪問、それによる中国での自動運転の導入許可取得」。
テスラはモデル2つまり「ブランニューモデル」の投入を中止したものの、現行のモデル3やモデルYをベースとし、そこへ製造上のイノベーションを盛り込むことで製造原価を大幅に(しかしモデル2ほどではないが)引き下げた廉価版EVの投入を2025年に導入すると発表し、これによって株価は12%もの大幅上昇を見せていて、さらに北京の一件では14%もの株価急騰を見せ、ここ数ヶ月の下げ幅を一気に挽回する流れとなっています。
-
テスラが中国にて自動運転(FSD)導入のための規制をクリアしたとの報道。自律運転とロボタクシー実用化に向け大きく前進、中国での地位奪回に期待がかかる
| テスラはこれまで中国市場ではFSDを使用できず、ライバルに対してディスアドバンテージを背負っていた | ただしこれで「中国のライバルと同じ土俵」に立てるようになったに過ぎない さて、昨日にはテスラ ...
続きを見る
これらの状況を整理してみると、「モデル2の中止」「モデル2のかわりに既存モデルの改良を行う」「スーパーチャージャー事業の縮小」「自動運転分野での人員強化」「サイバーキャブ(ロボタクシー)導入」「中国での自動運転導入」ということになるかと思いますが、ここからは一つの方向性が見えてくるように思われ、まず明確なのはコストと時間のかかる新製品開発を諦め、既存製品の改良を行うことで安価な製品をリリースし、手っ取り早く販売を回復させ利益率を向上させること」。
-
低価格EVの開発中止、突如としてのロボタクシー発表予告・・・。いまテスラとイーロン・マスクに何が起きているのか
| 正直言うと、現在の社会状況とイーロン・マスクの方向性とはマッチしていないように思われる | ただしこの先何が起きるかは誰にもわからず、どこかで「マッチ」する場面も出てくるだろう さて、ここ最近揺れ ...
続きを見る
モデル2は大幅に生産コストを引き下げることが可能ではあるものの、その市場投入が数年先だと見られていて、しかしこの変化著しい状況、かつ新興EVメーカーが頭角を表している状況で「数年のロス」は致命的であると判断したのだと思われます。
よって、モデル2ほど安く作って安く販売はできないものの、市場投入のスピードや投資規模等様々なバランスを考慮し、「現時点での最適な方法」として現行モデルの改良を選んだのかもしれません。
そして注目すべきは「スーパーチャージャー事業のスローダウン」そして「自動運転への注力」、そしてそれを搭載した「サイバーキャブ」。
これらを見ると、テスラはもはや市販車としてのEVに見切りをつけ、ソフトウエアカンパニーつまりテック企業への転身を図ろうとしているようも見受けられます。
実際のところ、イーロン・マスクCEOはずっと「テスラは自動運転技術含む車両の制御を中心としたテクノロジーであり、自動車メーカーとしてだけ見て欲しくはない」という見解を述べており、現在ではロボット(テスラボット=オプティマス)、AI、クリーンエネルギー(ソーラーパネルと蓄電池など)等幅広い展開を行っていて、自動車の製造販売は「テスラの一部」として捉えるほうが実情に即した正しい見方なのかもしれません。
参考までに、イーロン・マスクCEOは「EV普及の初期段階はどうしても車両が高価になるので、高付加価値の高価格な製品を富裕層を対象に販売し、それによって利益を元手に安価なEVを開発し大量に販売する」という計画をマスタープラン内に記載しており、常にその環境が変化することを前提として捉え、そしてEV販売そのものが目的ではなく、EVはクリーンエネルギーが主導する未来を実現するための”手段”にすぎないことが伺えます。
テスラは「EV販売」の先へと向かう
そうなると、競合が多数登場し、放っておいてもEVが普及するようになった現在の状況において、テスラが(消費者向けの)EVを製造販売するという役割を担う(あるいは固執する)必要はなく、またイーロン・マスクCEOがその先に進もうとしたとしても不思議はなく、つまり「EVの販売はテスラの後続に任せ、テスラは次のステップに」というのが今の状況なのだと思われます。
なお、上述の通り、イーロン・マスク氏の目標は「クリーンエネルギーの普及」であり、そのための手段がEVであるわけですが、テスラがEVを製造販売してきたのは「他社がそれをやっていなかったから」。
実際のところ「誰かがやらなければならないのであれば、自分がそれをやるしかないと思った。EVビジネスについては8割がた失敗すると思ってたけど、失敗することは問題じゃない。自分がもし失敗し倒れたとしても、誰かが(自分が持って走り出した)ボールを拾い、前に進めてくれるだろう。それで構わない」ともコメントしているので、EVの製造販売に対しては「もう自分たちがやらなくても、ほかの多くの会社がやってくれるだろう」と考えているのかもしれません。
-
【動画】テスラCEO、イーロン・マスクがTIME誌の「今年の人」に選ばれる!誰よりも早く環境変化に気づき対応したこと、その影響力、ジョークまでもが評価
Image:Tesla(X) | なんだかんだ言ってイーロン・マスクほど世の中を引っ掻き回した人はいないだろう | 達成した偉業、批判される奇行もまた同氏のパーソナリティーを構成する要因 さて、米「T ...
続きを見る
そうなるとテスラの次の(短期的な)目標は「個人が所有するEVの販売」ではなく「公共交通機関としての自動車をクリーンエネルギーに置き換えること」であるとも考えられ、これがロボタクシー(サイバーキャブ)につながってくる可能性が大。※テスラの役割は世界を変革するための「道」を作ることであり、その道ができれば役割をまっとうしたと考えてよく、よって新しい道を作ることを常に目指している
つまりは全世界のタクシーをEVへと置き換えることで環境に対しての貢献を行おうと考えているのだと推測できますが、ここで登場するのが重要なキーワードである「自動運転」。
環境のことだけを考えるならば、タクシーをそのまま(有人の)EVへと置き換えれば済む話ではあるものの、なぜ自動運転化した「ロボタクシー」にするのかという疑問が湧いてきます。
これについてもすでに回答が示されており、「無人化することで、運転をクルマに任せ、そのあいだ人間は別のクリエイティブな作業に従事できるから」。
この考え方はオプティマスやAIにも通じており、人間は重労働や単純作業をオプティマスに任せ、そして思考の補助やデジタル上の作業をAIに行わせることで、「人間にしかできない、創造的な分野」での能力の発揮ができる世界の実現を目指しているわけですね。
-
テスラのロボット「オプティマス」最新動画が到着。人間に替わって単純作業を行う様子、そしてバランス感覚を披露しストレッチやヨガを行う様子も
| 全体の動きはまだまだぎこちないが、腕と指先の動きの正確性には驚かされる | いずれは人間の仕事の一部を奪うことになるだろう さて、テスラはちょうど1年前にテスラボット「オプティマス」を公開していま ...
続きを見る
これらをあわせて考慮すると、昨年から現在に至るまでのイーロン・マスク氏の言動、そして実際のテスラの動きについても納得ができようというもので、やはりテスラは自動車メーカーではなくテクノロジー企業だと捉えるべきであり、そして今回の「EV事業縮小」とも取れる動きについては、これからの大きな飛躍に備えた準備であるとも考えられます。
-
残酷だが崩れる時は一瞬である。ドイツでのEV販売が14%減、そしてもっとも大きく販売を失ったのはテスラ。もはやテスラは「その他大勢」のひとつに
| もはやテスラはほとんどの市場で輝きを失ってしまい、こうなると低価格EVの発売に期待をかけるしかない | 現在、テスラのブランド力がまだ威力を発揮するのは地元アメリカくらいである さて、世界各地にて ...
続きを見る
実際のところ、イーロン・マスクCEOは「我々は、2つの大きな成長の中間にいる」と述べており、ひとつはすでに経験した「EVの製造販売による成長」、そしてもうひとつは「これから来るであろう、自動運転やロボット、AIが作る未来」ということなのかもしれません。
-
米調査「テスラは次のアマゾン」。人類史上もっとも偉大な男になりそうなイーロン・マスクについて考える
Image:Tesla(X) 米アナリストによると、「テスラは次のアマゾンになる」とのこと。これはテスラが小売を始めるということではなく、そのジャンルの「覇者」になるという意味だと思われ、要は自動車業 ...
続きを見る
あわせて読みたい、テスラ関連投稿
-
テスラが「スーパーチャージャー事業を閉鎖し、管理者2名、そしてその下の500名を解雇」との報道。同事業部は新たな、しかし大きな収益源になると見られていたが
| 加えてテスラはスーパーチャージャーを核とした娯楽施設を展開予定であったが | 一体テスラに何が起きているのか さて、ここ何度かにわたり幾度かの「一時解雇(レイオフ)実施」が報じられるテスラ。今回は ...
続きを見る
-
そろそろテスラ買おうかな(株の話だけど)。まだまだ短期では下がるだろうが、中期的に見ると成長余力のほうが大きそう。ようやくテスラの直近の戦略が見えてきた
| おそらくテスラはもっとも速いスピードで「下落を食い止める」手段を考え、モデル2ではなく別の方法でコストを引き下げるのだと考える | 「ロボタクシー」については大きな疑問が残るが、現時点でのほかのイ ...
続きを見る
-
テスラが中国、北米、欧州、その他の地域でも相次ぎ大幅値下げ。テスラは今どういった状況に置かれ、この状況を打開するには何をすべきなのか
| 現在の状況はテスラはじめ多くのEVにとってあまりに厳しい | ただしテスラにはまだまだ「やっていないこと、できること、やるべきこと」が残されている さて、ここ数日でテスラの「値下げ」が報じられてい ...
続きを見る