| ポルシェはなんとしてでも合成燃料の普及に目処をつけたいと考えているようだ |
現時点での合成燃料のコストはあまりに高く、かつ環境負荷も小さくはない
さて、ポルシェは自動車メーカーのうちでも非常に多くの特許を保有していることでも知られ、それらは安全に関わるもの、環境に関わるもの、快適性にかかわるもの、そしてもちろんパフォーマンスに関わるものなど多種多様。
そして今回新たに出願され公開となったのが「エアスクラバー」と呼ばれる装置についてであり、これは大気中に放出された二酸化炭素を回収するための装置です。
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ポルシェ「エアスクラバー」とはどんな装置なのか
この「エアスクラバー」なるパテントは2024年5月23日に出願がなされており、ポルシェによれば「周囲の空気から二酸化炭素を吸収するガス洗浄装置」と説明されていて、実質的には炭素回収の手段であり、全く新しい概念ではないところには留意する必要があります。
じゃあなんでポルシェがこれを特許として申請したのかというと、その使い方に特徴があって、まずは空気中に含まれる二酸化炭素を回収し、その回収したCO2を合成燃料(Eフューエル)の製造へと活かすから。
たとえば、周囲の空気から抽出された二酸化炭素は、合成燃料の製造に使用できます。合成燃料は、いわゆる Power-to-X 技術、特に電力、水、二酸化炭素から製造され、合成燃料は、たとえば自動車の内燃機関の燃料として使用できます。
ポルシェはかねてより合成燃料の普及に対して強い意志を示していますが、この合成燃料の生産に際しては二酸化炭素を回収する必要が生じ、しかしこの「二酸化炭素の回収」に大きなコストがかかること(そしてこれが理由で合成燃料の価格が高止まりしていること)が合成燃料の普及を妨げる一因となっているわけですね。
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ポルシェはチリのほかいくつかのパイロット生産施設を持っており、すでに合成燃料の生産を開始していますが、上述の通り合成燃料の生成には二酸化炭素が必要で、二酸化炭素を収集後に水素と合成されて炭化水素が生成されます。
この炭化水素は、ぼくらがよく知っているガスと同じもので、この合成燃料をポルシェに注入すると、「燃焼」はするものの、あらかじめ二酸化炭素を吸収して燃料が作られているために「最初(製造時)にマイナス、その後(燃焼時)にプラス、そしてエミッションがプラスマイナゼロ」という考え方ということに。
よってポルシェはこの合成燃料を使用することでカーボンフリーを推しすすめようという考えを持っていて、しかし環境炭素回収プロセスの問題は、資源(水)を大量に消費すること、さらにポルシェによると、環境空気中の二酸化炭素濃度が約400ppmとかなり低いこと(つまり必要な量の二酸化炭素を集めるのは困難である)。
もう1つの問題は、現在のシステムではその精製の過程で大量の追加の水が必要となるため、空気中から炭素を吸収することは、理想主義者が信じているよりもはるかに環境に優しいものではないということです(さらに合成燃料は物理的な輸送が必要であり、その過程でもCO2を発生させる可能性がある)。
エアスクラバーによって何ができるのか
そして今回ポルシェが出願した「新しい発明」であるエアスクラバーは、「合成燃料に必要な二酸化炭素を確保するための水の必要量を減らしながら、周囲の空気から効率的に二酸化炭素を吸収する」というすぐれモノ。
これをどのように行うかを簡単に説明すると、排出するきれいな空気から水分を吸い取り、この水分をいわゆる汚れた空気の吸気口に再循環させ、この「リサイクル」によって二酸化炭素吸収プロセスで必要な外部の水の量が減り、周囲の二酸化炭素をより効率的に利用できるように。
このプロセスをより効率的に行い、資源の消費を抑えることで、合成燃料の製造に必要な水とエネルギーの量が減ることが予想でき、これによってポルシェは合成燃料の精製にかかるコストと環境負荷を大きく減らそうというわけですが、気になるのはこの装置をどうやってクルマに取り付け、どうやって収集した二酸化炭素を合成燃料精製工場へと集めるかということ。
しかし常識的に考えるならば、一般向けに販売するクルマに対してではなく、フォルクスワーゲングループが使用している営業車や社用車に取り付け、そして定期的に回収した二酸化炭素を集めてポルシェの持つ合成燃料(Eフューエル)精製設備へと送ることになるのかもしれません。
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