
| 米欧が新関税合意に達し、輸入車価格の急騰を回避 |
意外や株式市場の反応は「冷ややか」である
週末、欧州連合(EU)とアメリカ合衆国は、自動車および部品に関する新たな貿易協定に合意しましたが、これにより、ポルシェやアルファロメオなどEU諸国からの輸入車価格は緩やかな上昇に留まる見通しであると報じられています。
この合意では、当初8月1日の「リベレーション・デー(報復関税発動日)」に導入が予定されていた30%の自動車関税が15%に引き下げられ、日欧ともに全面的な貿易戦争を回避することに成功し、つまり「米国に輸入する欧州車の値上がり幅が半分に」なったことを意味していて、これは各(欧州)自動車メーカーの株価にも好影響を与えるはずなのですが、なぜかフェラーリの株価が前日比2%(10.34ドル)下がってしまうことに。
EUは米国市場を開放、7500億ドル相当の物資購入も
この「関税の引き下げ」を勝ち取る代わりとして、EU側は米国製品に対する関税を一部撤廃し、今後3年間で7500億ドル相当の石油・ガス・核燃料・半導体をアメリカから購入することを約束。
また、6000億ドル規模の米国経済投資も発表されており、その中には軍事装備への支出も含まれるとされています。
なお、アメリカは鉄鋼・アルミニウムに対する現行の50%関税を維持する方針ですが、今後輸入枠(クオータ)制度への移行が検討される可能性もあり、先の日本との合意のように「カネを出し、アメリカに協力すれば関税が下がる」ことが実証されたということに(日本がその前例を作ってしまった)。
米国自動車業界の反応は「冷ややか」
米国は現在、多くのEU製車両に27.5%の関税を課しており、これが輸入の遅延や生産拠点のアメリカ移転を招いていたわけですが、今回の合意で関税が15%に引き下げられたとはいえ、トランプ政権以前の2.5%と比較すれば依然として高水準であり、米自動車業界や労働者の反応は芳しくないもよう。
加えて、アメリカの自動車メーカーは販売車両の約半数を輸入に頼っており、部品の多くも海外製で、一方、カナダ・メキシコ・韓国・中国からの輸入車には依然として高関税がかけられており、米メーカーはグローバル競争で不利な状況に置かれています(この状況で欧州車メーカーの株価が下がるのは理解が難しいが、もっと関税が引き下げられることを市場が期待していたのかも)。
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欧州メーカーにとっては「ひとまずの猶予」も、苦境は続く
この関税合意により、欧州の自動車メーカーは一息ついた格好ですが、その先行きは依然として不透明。
ウクライナ戦争以降のエネルギーコスト高騰は、ドイツを中心とした生産拠点に大きな打撃を与えており、さらに2035年までの内燃機関禁止政策も多額のEV投資を迫っているという状態で、特に中国市場の需要減が深刻でもあり、現地ブランドが急成長する中、ポルシェやBMWといった高価格帯メーカーでさえ販売低迷にあえいでいる、という状況です。
ポルシェ、モデル転換とリストラを進行中
そんな中、ポルシェのCEOであるオリバー・ブルーメ氏は先週、「これまで成功してきたビジネスモデルは、もはや持続可能ではない」と社員に語っていて、ポルシェはすでに今後10年で最大4,000人の人員削減を表明しており、さらなるリストラの可能性も。
親会社のフォルクスワーゲン(VW)グループは2025年第2四半期に13億ユーロ(約1.5兆円)の減益を報告し、ポルシェの販売は上半期で6.0%減少したうえ、アウディも5.9%のマイナスを記録するなど厳しい状況が続いています。
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参照:BBC