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| 日産とホンダが手を組む必然性 — 自動車業界を襲う「関税ショック」 |
日産は「提携」を拒んでいたがーートランプ関税が状況を変える
世界的なEVシフトの減速や、中国メーカーの台頭など、自動車業界は激動の時代を迎えていますが、そんな中で日本の自動車メーカーを直撃しているのがトランプ政権による対日自動車輸入関税の引き上げです。
一時は27.5%まで引き上げられた関税は、貿易協定により15%まで下がったものの、貿易戦争前のわずか2.5%と比較すれば、依然として極めて高い水準であり、これが各社に対し「極めて深刻な」状況を突きつけていて、直近で発表された報告書では「赤字転落」を報告する例も。
今の世の中ほど「柔軟な対応」が求められる状況はない
この関税は、日産に約2,750億円(18億ドル)、ホンダに約3,850億円(54.2億ドル)もの巨額の利益損失をもたらすと予想されていますが、こういった「予想しなかった状況」の登場によって新しく浮上したのが「ホンダと日産との提携」再交渉というニュース。
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この厳しい現実を前に、かつて合併話が浮上しながら破談となったホンダと日産が、北米市場での生き残りをかけ、再び協業の可能性を模索しているというわけですが、この動きは、現代のビジネスにおいて「何を自前でやり、何を他者と共有し、どこに集中すべきか」という重要な問いを投げかけており、もはや「同業者は単なるライバルではなくなった」「必要であれば手を取らねば共倒れになる」という現在の状況を暗示するかのようですね。
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1.提携の焦点は「パワートレイン」と「車両共同開発」
まず、日産のイヴァン・エスピノーサ新CEOは、この提携交渉の目標は「恒久的な合併」ではなく、より流動的で実用的な協力関係にあることを強調しています。
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1-1. 資本提携ではなく「業務提携」の深化
エスピノーサCEOは、「統合や資本提携については議論していない」と明言しつつも、「北米でどのように協業できるか」について集中的に協議していると述べ、その具体的内容として、以下のプロジェクトがテーブルに載っているもよう。
- 車両の共同開発
- パワートレイン(駆動系)の共有
- ソフトウェア開発
さらには両社の経営陣に至るまで定期的かつ建設的で前向きな会合を重ねているとされ、今回の提携については「内田誠前CEOの退任が合併交渉の条件」と(以前に)語っていたホンダも”乗り気”なのかもしれませんね。
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1-2. リソースを集中し「競争優位性」を確保
北米市場は、関税の問題に加え、純粋なEV(電気自動車)市場の冷え込み、そして今後はBYDなどの中国メーカーが低価格攻勢を強めることが想定され、極めて厳しい競争環境にあり、さらにその厳しさはいっそうシビアになってゆくものと予想されます。
エスピノーサCEOは、両社が北米に「製造、供給ネットワーク、エンジニアリング」という非常に優れたカバレッジ(資産)を持っていることを利点として挙げ、「探求すべき多くの選択肢がある」とコメント。
リソースをプールし、共通のプラットフォームやドライブトレインを共同開発することで、両社は開発コストを削減し、競争が激化する市場で価格競争力を維持することを目指そうとしているわけですね。
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2.不確実な時代に必須な「ビジネスの柔軟性」
このホンダと日産の動きは、未来を予測しにくい時代における、企業の取るべき姿勢として大きな教訓を含んでいます。
2-1. 理想を追わず、現実に合わせて計画を変更する勇気
日産は現在、2028年までにグローバルな工場数を17カ所から10カ所に削減し、2万人の人員削減を含む「Re:Nissan」再建計画を推進中。
直近の巨額損失にもかかわらず、エスピノーサCEOは「世界は非常に速く変化している」とし、以下のように強調しています。
「日産とその株主に価値をもたらす限り、いかなる種類の協業にもオープンである。」
これは、「(以前の日産に顕著であった)自社の技術やブランドへのこだわり」よりも、「生き残りと株主への価値提供」を最優先するという、極めて現実的で柔軟な戦略への転換を意味します。
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2-2. 潜在的な協業の範囲
すでに両者は2024年8月には車両のインテリジェンスと電動化に関する提携に署名していますが、今回の協議はそれ以上の範囲に及ぶ可能性があり・・・。
- 共同プラットフォームの開発
- 共同ドライブトレインの製造
- 日産の北米工場でのホンダ車生産(稼働率の低い工場を有効活用する狙い)
これらの協業は、「自前主義」を脱却し、必要な部分でのみリソースを集中するという、現代の企業戦略の好例となりそうですね。
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まとめ:生き残りをかけた「集中」の再定義
ホンダと日産の協業は単なるビジネスニュースではなく、それは、「巨大な外部要因(関税など)によって目標達成が困難になった時、いかに柔軟に戦略を変更し、リソースを集中するか」「目的達成のためには計画やプライドに固執するべきではない」という、ぼくら自身の生産性やキャリアにおける教訓ともいえるもの。
企業も個人も、市場(あるいは環境)が急速に変化する中で生き残るには、「過去の成功体験」や「自社のこだわり」に固執せず、「価値を生む場所」に集中するため、他者との協力を厭わない柔軟な姿勢が不可欠というわけですね。
この提携が両社にとってコスト削減と競争力強化という具体的な成果をもたらすのかどうか、一つの成功例となりうるのか、今後の進展には注目が集まります。
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参照:CARSCOOPS
















