
| 現在、中国の自動車メーカーのトレンドは「記録更新」である |
別の意味で「世界中にその名が知れ渡る
さて、シャオミやBYDなど中国の自動車メーカーが次々チャレンジしているのが「記録更新」。
この記録更新は新興自動車メーカーやそのセグメントの新参者にとって”その存在感をアピールする”のに格好の手段であり、よって過去にはブガッティやケーニグセグ、ヘネシー、リマックなども「記録争い」へと参加しています。
そして同じ理由から「日米欧の自動車メーカーにように、歴史を持たない」中国の自動車メーカーがこぞってその実力を世界に示すために採用している手法が「記録への挑戦」そして達成というわけですが、今回は中国・奇瑞汽車が自社のSUV、Fulwin(風雲)X3Lにて中国・天門山の「999段の階段」を登り切るという挑戦を行うことに。
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レンジローバーは“あっさり成功”した伝説の挑戦
なお、天門山「999段の階段」が自動車業界的に知られるようになったのは2018年にランドローバーがレンジローバー・スポーツにてこれを登り切るという“ドラゴンチャレンジ”を行ってから。
平均勾配45度(最大60度超え)の濡れた階段を軽々と登る映像は、自動車業界のプロモーション史に残る名シーンとなり、その“偉業”をなぞらえようとしたのが中国の奇瑞(Chery)。
使用したのは、同社の (双電機4WD/レンジエクステンダーEV)、Fulwin X3Lですが、その結果は「大失敗」。
その様子はネットで一気に拡散し、世界的な“バズ”となっています。
まずは多くの人々が見守る中、意気揚々とスタートするも・・・。
途中で姿勢を崩し、車体が傾いてズルズルと滑り落ち・・・。
階段の橋に衝突してしまい側面の柵を破壊してしまいます。
失敗の原因は「安全ロープの破損」——奇瑞は謝罪コメントを発表
奇瑞汽車はこの事故の後、声明文を発表し次のように説明。
- 安全ロープを固定する金具(シャックル)が「想定外に脱落」
- ロープが車両の右前輪に巻き込まれる
- 駆動力を失い、車両が後退 → 階段下部のガードレールに衝突
- 天門山の施設に損害を与え、奇瑞は「補償責任を全面的に負う」
ただ、この「敗因」は言い訳ではなく、実際に動画内では事故後もドライバーが再び登ろうとするものの、前輪にはロープが巻き付いたままで走行不能になっている様子が確認でき、チェリーは「リスク評価の不備があった」として今回の事故を深く反省するとコメントしています。
なお、ネット上では「安全装備が原因で失敗するのは皮肉すぎる」という声も多く挙がっているようですが、姿勢を崩す前の走行状況を見ても、レンジローバーほどの速度と安定性が感じられず、もし今回のトラブルがなかったとしても成功は難しかったのかもしれません。
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挑戦に使われた車:奇瑞 Fulwin X3L とは?
Fulwin X3L は中国市場向けのミドルサイズSUVで・・・。
- デュアルモーター4WD(422馬力)
- 1.5Lレンジエクステンダー
- 最低地上高:約226mm
- アプローチ角:22度/デパーチャー角:30度
- 価格: 約250〜350万円
- ボディサイズ:全長4,545ミリ、全幅1,945ミリ、全高1,815ミリ
こういった感じの「スペック上はそこそこ優秀な」クルマです。
外観は明らかに「ランドローバー・ディフェンダー風」でもあり、今回の挑戦は本家の“ドラゴンチャレンジ成功”を意識した企画であることは明白だとされていますが、しかしスペック云々よりも、プロモーションの詰めの甘さが最大の問題となってしまった結果だと言えそうです。※チェリーはコピー製品を作ることで比較的有名だった時期がある。今でも「まんまコピー」でなくとも、ロボットや「空飛ぶクルマ」を発表するなど、他社の戦略を真似することがままある
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Image:Chery
結局、狙いは“話題作り”?
今回の試みは、
- 成功すれば「レンジローバーと並ぶ」
- 失敗してもバズる
という、ある意味では“勝ち筋しかない”企画であったという指摘もあり、実際のところ今回の失敗は世界中でニュースとなって「Fulwin X3L」の名前が一気に広まることに。
奇瑞汽車としても「広告費としては安い」と考えている可能性も考えられ、結果的には「奇瑞汽車の勝利」なのかもしれません。
なぜレンジローバーは成功し、奇瑞は失敗したのか?
天門山の999段階段は、濡れ・角度・幅のいずれも過酷な条件であり、プロモーションとしては世界屈指の難易度としても知られ、今回の失敗の要因として考えられるポイントは以下の通り。
- レンジローバーは緻密な準備と専用装備で挑戦した
- 奇瑞は安全装備の評価不足を認めており、事前検証が不十分
- Fulwin X3L はあくまで量販SUVであり、悪路走破性は“それなり”
- パフォーマンスよりも注目目的の企画だった可能性
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まとめ:奇瑞の失敗は「悪い宣伝」ではない
結果として奇瑞は大きなダメージを受けたものの、世界中に名前が広まったという意味では“(欧州進出を狙うチェリーにとって)目的達成”と言えるのかも。
ただし、レンジローバーのような“技術の証明”とは程遠く、今回の失敗がブランドの信頼性に悪影響を与える可能性もあり、いずれにせよ、「最難関プロモーションに気軽に挑むべきではない」という教訓を残した出来事ではないかと捉えています。
今後奇瑞が“リベンジ”を行うかどうかにも注目が集まりますが、もし今回の一見で「注目を浴びるという目的」を達成したと考えるのであれば、「ここで終わり」となる可能性もありそうですね。※実際、チェリーは中途半端な企画や製品で話題を集めることも少なくはなく、「炎上マーケティング」の一環かもしれない
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