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| ベントレーといえば「重厚な乗り味」で知られるが |
グランドツアラーの常識を覆す「純粋な走り」への回帰
ベントレー・コンチネンタルGT(Continental GT)といえば、超豪華な内装と圧倒的なパワーを併せ持つ、「速くて快適な大陸横断車(グランドツアラー=GT)」の代名詞。
しかし、その重厚な車体ゆえに、(いかに高出力といえど)純粋なスーパーカーとは一線を画す存在であったのもまた事実です。
しかしつい先週、その常識をベントレー自身が打ち破ることとなり、その手段が最新の限定モデルである「コンチネンタルGT スーパースポーツ(Supersports)」。
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VW傘下で蘇ったGTと、歴史を刻んだ「スーパースポーツ」
このコンチネンタルGT スーパースポーツは贅沢なGTカーのイメージを脱ぎ捨て、「 purpose-built supercars(目的特化型のスーパーカー)でさえ霞ませる」ほどのハンドリングとパフォーマンスを追求したというモータースポーツ直系の血統を持つ”準”レーシングマシン。
この「重厚なGTカー」を「究極のドライバーズカー」に変貌させたその思想、さらには過激すぎる軽量化とRWD(後輪駆動)化の全貌を見てみたいと思います。
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物語は1990年代後半に遡る
かつて経営難に陥っていたベントレーは、1998年にフォルクスワーゲン(VW)グループに買収されていますが、VWは1994年に発表されたコンセプトカーを土台として、2003年に初代コンチネンタルGTを発売。
これによりベントレーは一夜にして「忘れ去られたブランド」から「国際的な超高級ブランド」の最前線へと返り咲くこととなっています。
なお、この際にフォルクスワーゲングループが採用した方針が「重厚なGT」「圧倒的なパワー」「全輪駆動による安定性」というもので、それらが現代ベントレーのイメージを決定づけたわけですね。
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1-1. 歴代スーパースポーツの系譜
「スーパースポーツ」の名は、(VW時代の)初代コンチネンタルGT登場後、究極のパフォーマンスを追求するモデルに与えられてきたという歴史を持っています。
- 初代(2009年): バイオ燃料対応のW12エンジン(621馬力)を搭載し、当時のベントレー史上最強モデルに。
- ISR(2011年): アイススピードレコードを記念した限定80台のモデル。
- 第2世代(2017年): W12エンジンを700馬力まで高め、カーボンセラミックブレーキなどを装備。限定710台。
ただ、VW買収前まで遡ると、ベントレー初の「スーパースポーツ」は、1925年に登場しており、この”真の”初代「スーパースポーツ」は、ベントレー 3リットルの高性能バージョン。
- ベースモデル: ベントレー 3リットル
- 特徴:
- 高性能: 3リットルエンジンを強化し、約85馬力を発生。これは当時としては非常に強力な数字である
- 最高速度: 160 km/hを超える速度に達することが可能であり、この速度は、当時の市販車としては驚異的なもので、これが「スーパースポーツ」の名の由来となった(なんといっても100年前という時代背景を忘れてはならない)
- 限定生産: 非常に少数しか生産されず、真の高性能スポーツカーとしての地位を確立する
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この初代スーパースポーツは、ベントレーのレーシングの血統を体現し、「ベントレー・ボーイズ」と呼ばれる人々によってレースでも活躍したことでも知られます。※ベントレー・ボーイズとは、ベントレーを愛する富裕層出身の英国紳士を指す
そしてこの初代スーパースポーツの登場から100周年を記念して登場したのが最新「スーパースポーツ」で、500台のみが限定にて生産される、とアナウンスされています。
究極の軽量化戦略 — RWD化と「アンダー2トン」
この新型スーパースポーツの核となる哲学は「究極のドライバーエンゲージメント(運転する楽しさ)」。
この目標達成のために、ベントレーは従来モデルとは一線を画す、過激な軽量化とパワートレインの変更を行っています。
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コンチネンタルGT史上初の「RWD(後輪駆動)」
最大の革新はその駆動方式。
GT3レースカーを除き、コンチネンタルGTの歴史上初めて、四輪駆動(AWD)を捨てて後輪駆動(RWD)を採用していますが、これは、従来の重量級AWDから大幅に重量を削減しつつ、ピュアなFRスポーツカーとしての敏捷性と、よりスリリングなドライビング体験を追求したことを意味します。
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後席撤去、ハイブリッド排除、そしてカーボンファイバーの採用
大幅な軽量化を実現するために以下の施策が実行され、その軽量化の結果は実に「500kg」。
ハイブリッドシステムを取り除くだけでもかなり軽くなりそうではありますが、「ハイブリッドではなかった」初代コンチネンタルGTの車体重量が2,385kgだったので、新型スーパースポーツが「2トンを切る(2,000kg未満)」というのはまさに驚異的な進化です。
そして「後席除去」という”ベントレーらしからぬ決断”もまた、スーパースポーツにかける意気込みを示しているかのようですね。
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| 項目 | 変更内容 | 軽量化効果 |
| パワートレイン | ハイブリッドコンポーネントを完全に排除し、純粋な4.0L V8 ICE(内燃機関)のみに。 | 大幅な重量削減 |
| キャビン | 後席を完全に撤去し、2シーター化。後席スペースはカーボンファイバーとレザーのシェルに置き換え。 | 約500kgの軽量化に貢献 |
| ボディ | ルーフパネルを含む主要な外装部品をカーボンファイバー化。 | **車両重量2トン未満(4,000ポンド未満)**を達成。 |
| その他 | 大型のカーボン製エアロパーツ、チタンエキゾースト、専用スポーツシートを採用。 |
スーパーカーを凌駕するパフォーマンスの裏側
さらには軽量化とRWD化に加え、パワートレインとシャシーにも徹底的なチューニングが施されていますが、現時点ではサーキットのラップタイムは「未公表」。
いったいどれだけのパフォーマンスを誇るのかは気になるところでもあり、今後の「発表」を待ちたいところ(いかに軽量化したとしても、生粋のスポーツカーに比較すると”まだ重く”、よって驚くような数値が出ずにタイムを公開しない可能性も考えられる)。
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| スペック詳細 | 数値 | 備考 |
| エンジン | 4.0L V8ツインターボ(非ハイブリッド) | 強化されたクランクケース、大型ターボチャージャー |
| 最高出力 | 666 PS | リッターあたり166.5psのベントレー史上最高出力密度 |
| 最大トルク | 800 Nm | |
| 0-60mph加速 | 3.7秒 | |
| 最高速度 | 192 mph(約309 km/h) | |
| コーナリング性能 | 最大横G 1.3G | GTスピードよりも約30%速いコーナリング速度 |
なお、その外観についても「要注目」となっており、フロントスプリッターと固定式リアウィングを含む、ベントレー史上最もアグレッシブなエアロダイナミクスが導入され、GTスピード比で300kg以上ものダウンフォース増加を実現しています。
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さらには最高速度ではなく、ハンドリングとドライバーエンゲージメントに焦点を当てたとも説明されており(これまでのベントレーは最高速を重視していた)、電子制御リミテッド・スリップ・デフ(eLSD)とトルクベクタリングが組み合わされ、そのコーナリング能力は純粋なスーパーカーの領域にも達しているのだそう。
ベントレーはもともと「スポーツカーメーカー」であった
今でこそ「超高級車」のイメージが強いベントレーではありますが、創業当初は「生粋のスポーツカーメーカー」として知られていて、それが変わったのは「ロールス・ロイスに買収されてから」。
しかしその後、フォルクスワーゲンによる買収を経てそのスポーツカーメーカーとしてのルーツを随所に反映させることとなり、さらに今回、CEOの変更によって「創業当初同様の、ピュアなスポーツカーを作る自動車メーカー」へと回帰を図っているのかもしれませんね。
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ロールス・ロイスによる買収前(1919年〜1931年)
この時期は、W.O.ベントレーが創業した「ベントレーの黄金期」。
- 車両の特徴:
- レーシングカーメーカー: 純粋な高性能スポーツカーメーカーであった
- 「ドライバーズカー」の哲学: 創業者W.O.ベントレーの哲学に基づき、オーナー自らが運転を楽しむための車(ドライバーズカー)を製造していた
- ル・マンでの栄光: ル・マン24時間レースに開催初年度から参戦し、2年目で優勝、1927-1930年まで4年連続で優勝を果たすなど、モータースポーツでの成功がブランドの核であった
- 生産拠点: クリックルウッド工場(ロンドン)。
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2. ロールス・ロイスによる買収後(1931年〜2003年)
世界恐慌の影響でベントレーが破綻し、ライバルであったロールス・ロイスに買収され、ここで大きな路線の変更を余儀なくされます。
- 車両の特徴:
- 「サイレント・スポーツカー」: ロールス・ロイスの静粛性、信頼性、洗練されたデザインを取り入れ、「静かなスポーツカー」と呼ばれるように
- 姉妹車化: 多くのモデルでロールス・ロイス車とプラットフォームやエンジンなどの基本設計を共有
- 役割分担の明確化:
- ロールス・ロイス: ショーファードリブン(運転手がいる)の最上級サルーン
- ベントレー: オーナー自らが運転する、よりスポーティなデザインやチューニングを施した姉妹車
- モータースポーツ活動の休止: ロールス・ロイスの意向により、創業時の核であったレース活動から事実上撤退。これによってスポーツカーとは距離を置くことに
- 生産拠点: ロールス・ロイスのダービー工場、後にクルー工場(ロールス・ロイスと共用)
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結び:ドライビングの楽しさへの「覚悟」
ベントレーのCEOであるフランク=シュテッフェン・ヴァリザー博士は、「新型スーパースポーツは、単なる最もドライバー重視のベントレーではない。真のドライバーエンゲージメントと卓越した能力を組み合わせたより過激な車造りへの回帰を意味する」と述べています。
重厚なグランドツアラーから、妥協を排した2シーターRWDのスーパースポーツへの変貌は、ベントレーがEV時代へ向かう中で、純粋な内燃機関(ICE)の限界とドライビングの楽しさを極限まで追求するという「覚悟」を示しており、ベントレーファンのみならずスポーツカーファンにとっても「必携のコレクターズアイテム」となるのかもしれません。
なお、新型スーパースポーツの価格は現時点で未発表(5000万円オーバーになるという説が有力)、受注開始は2026年3月から。
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