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重力に逆らう?フェラーリが「逆さま水素エンジン」の特許をさらに推し進めて開発:注油停止の衝撃メカニズムとは

重力に逆らう?フェラーリが「逆さま水素エンジン」の特許をさらに推し進めて開発:注油停止の衝撃メカニズムとは

| フェラーリが「逆さま水素エンジン」の難題を解決。点火直前に注油を止める驚愕のメカニズムを特許出願 |

フェラーリはそこまでして「水素」エンジンの実用化を考えている?

長年にわたり、フェラーリはV型、水平対向(180度V方)、直列など、あらゆるエンジンレイアウトを試してきましたが、昨年取得された「エンジンを上下逆さまにする」という特許は文字通り「自動車業界の常識を覆すもの」。

そしてフェラーリはこの”メカニック泣かせ”な「逆さま水素燃焼エンジン」の実現に向けた開発を継続しており、今回、最大の技術的課題であった「潤滑」の驚くべき解決策を記した最新特許が『CarBuzz』によって報じられています。

フェラーリが「あまりに奇抜すぎる」特許を出願。エンジンは直6で水素かつ上下逆に搭載、さらには電動スーパーチャージャー装備など現行モデルとの共通性が全く皆無
フェラーリが「あまりに奇抜すぎる」特許を出願。エンジンは直6で水素かつ上下逆に搭載、さらには電動スーパーチャージャー装備など現行モデルとの共通性が全く皆無

| ある意味でこの構成は「革命」に近い | ただしフェラーリのメカニックにとっては「整備が非常に困難」なシロモノとなりそうだ さて、これまでにもフェラーリは様々な特許を出願していますが、今回はそれらの ...

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その解決策とはエンジンを停止する直前、クランクシャフトが回転している間にオイルポンプをシャットダウンするという常識外れの(かつ複雑な)方法であり、これは、重力に逆らうというフェラーリ自身が生み出した難題に対して”あえて危険を冒すことで”解決しようとする内容。

フェラーリが「水素エンジン」を開発中ということだけでも大きな驚きですが、さらには「逆さま」、そしてその課題を解決するため、さらに研究を推し進めているという事実にも驚かされます。

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逆さまエンジンのメリットとデメリット

フェラーリの独創的なエンジンデザインは、スパークプラグが下部、クランクシャフトが上部という「従来の配置を完全に反転させた構造」。

つまり、ボンネット(あるいはエンジンフード)を開けると、オイルパンが見える、ということになりますね。

逆さまにする理由:スペースの確保

この奇妙なデザインの最大の理由は、水素燃料タンクのためのスペースを確保することだとされ、水素はエネルギー密度が低いため、十分な航続距離を確保するには大型で高圧のタンクが必要になります。

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エンジンを反転させることによって車両設計にゆとりが生まれ、アグレッシブなディフューザーを配置するなど、パフォーマンス重視の車体設計が可能になるわけですが、つまりフェラーリはこの「逆さま水素エンジン」をライフスタイル系ではなく、スポーツ系に搭載しようと考えているのだと思われます。

最大の難題:オイルの流れ

従来のエンジンでは、オイルは底部(オイルパン)に溜まり、ポンプで上部に送られ、重力によって再び(垂れ下がることで)オイルパンに戻ってきます。

しかし、エンジンが逆さまになると、クランクシャフトが上に来るため、オイルは重力によってクランクシャフトから離れ、そのままシリンダー下側(ピストンの開放された裏側)へと流れ落ちてしまうことに。

  • 問題点: エンジン停止後、オイルが燃焼室に流れ込み、スパークプラグがオイルで”水没”したり、ハイドロロック(油圧によるロック)を引き起こしたりする可能性がある
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潤滑問題の革新的解決策:電動ポンプと即時停止

フェラーリのエンジニアがこの「オイルの流れ」の問題を解決するために考案したメカニズムはまさに「掟破り」。

1. ドライサンプシステムの採用

まず、エンジンはドライサンプシステムを採用しますが、これにより、大量のオイルがエンジン下部のオイルパンに溜まることがなくなってシリンダー内に流れ込むオイルの量を最小限に抑えることができ、オイルは独立したタンクに保管されるという仕組みです(下に落ちたオイルを吸い上げる)。

2. 電動オイルポンプによる制御

さらには従来型のカム駆動ポンプではなく電動オイルポンプを採用し、これによってオイル流量の調整、加えてポンプのオン/オフをECU(電子制御ユニット)によって精密に制御できるように。

3. 点火停止前のオイルポンプ停止

これが最も革新的な部分であり、その仕組みは以下の通り。

  • 手順: エンジンECUは、点火と燃料供給を停止する0.5秒〜2.5秒前(通常は約1秒前)に、電動オイルポンプを停止させる
  • メカニズム: 注油が止まっても、クランクシャフトはまだ回転中。この回転によって、クランクシャフトに残ったオイルが遠心力でクランクケース側面に振り飛ばされ、そこからドレン(排水路)を通って外部のオイルタンクに戻される
  • 効果: これにより、エンジンが完全に停止する頃には、クランクシャフト周りには必要最小限のオイルしか残っておらず、燃焼室へのオイルの浸入を防ぐことができる
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リスクとフェラーリの挑戦

この手法は、わずか1秒程度の間にクランクシャフトが重大な潤滑不足に陥るのを回避する必要があり、極めてリスクの高い設計です。

しかし、フェラーリは長年のパートナーであるオイルメーカーシェル(Shell)と協力関係にあり、この課題を克服できると見込んでいるとされ、「なんとしても」この構造を実現させたいのかもしれません。

結論:フェラーリの伝統と未来への大胆な一歩

フェラーリの「逆さま水素エンジン」は、「V、フラット、インライン」といった従来のレイアウトに飽き足らず、常に「限界のその先」を追求し続けるフェラーリの姿勢を象徴しています。

環境規制が厳しくなる時代にあっても、「内燃機関の熱狂的な楽しさ」を維持するため、ここまで大胆な、そして奇妙な技術に挑戦するというフェラーリの情熱には敬服するばかりではありますが、この水素(燃焼)エンジンはおそらくは「ガソリンエンジン絶滅後」の未来を見据えたものであるとも考えられます。

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つまり、この水素燃焼エンジンが「フェラーリにとって、フェラーリらしいドライバビリティを維持しつつ、CO2排出量をゼロにする」ための(バッテリーEV以外の)重要な選択肢となりつつあることを意味しており、その実現のためには、重力という物理法則すらをも独自のエンジニアリングで捻じ曲げる必要があるというわけですね。

そしてこの”常識にとらわれず”妥協しない姿勢こそが、フェラーリをフェラーリたらしめていると言えるのかもしれません。

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参照:CARBUZZ

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