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フォードとルノーが大型提携を発表。フォードの欧州市場シェアはこの20年で1/3へ縮小、起死回生の命運をルノーに託す

フォードとルノーが大型提携を発表。フォードの欧州市場シェアはこの20年で1/3へ縮小、起死回生の命運をルノーに託す

Image:Ford

| フォードは「SUVとトラック」に集中し、その代償を支払うことに |

この記事のハイライト:フォードとルノーの戦略的提携が意味するもの

  • 20年の凋落: フォードの欧州市場シェアはピークであった2005年の8.3%から直近の10ヶ月で2.9%へと降下。
  • 主力車種の絶滅: フィエスタ、フォーカス、モンデオといった人気車種を次々と廃止し、ラインナップが空洞化
  • 起死回生の提携: フォードはルノーのEV部門「アンペール(Ampere)」と提携し、2車種の小型EVを投入
  • 2028年に第1弾: 2028年初頭に第1弾モデルを発売予定。プラットフォームはルノー5やトゥインゴが使用するAmpR Smallが有力
  • デザインはフォード: 車両はルノーのプラットフォームを使い、フランスの工場で生産されるがデザインと走行性能は「フォードDNA」を主張

なぜフォードは「自社開発」を諦め、ルノーに頼るのか?

かつてヨーロッパの街中でその名を轟かせたフォードが今深刻な危機に瀕しており、20年間で市場シェアは3分の1以下に激減。

その背景には収益性の低いセダンやハッチバック(モンデオ、フォーカス、フィエスタなど)を次々と生産終了するという大胆すぎる車種整理があり、これは本国にて「トラックとSUVとマスタング以外は全部廃止」とした前CEOの戦略による影響だと考えられます。

そしてフォードは残されたラインナップの隙間を埋めるため、すでにフォルクスワーゲン(VW)と提携しEVを開発するという対策を取っているものの、次のステップとして選んだのがフランスのルノー。

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これは、ルノーのEV部門「アンペール(Ampere)」の技術を活用し、「安価で競争力のある小型EV」を緊急で市場に投入するというフォードの背水の陣とも言える戦略で、ここでは、この異例の提携が生まれた背景、そして2028年に登場するとされる新型EVが「凋落したフォード欧州事業を本当に救えるのかどうか」を考えてみたいと思います。

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ルノーとの提携でフォードが得るもの

危機的状況:20年で市場シェアが激減したフォード

フォードの欧州市場における状況はデータが示す通り極めて深刻で、この凋落は中国勢の台頭やEVへの移行の遅れに加え、上述のとおりフィエスタ、フォーカス、モンデオといった基幹車種を次々と廃止したことでさらに加速。

失った市場シェアを取り戻すには、手早く、競争力のある製品を投入するしかないといった状況が根底にあるわけですね。

販売台数(欧州)市場シェア
2005年120万台8.3%
2025年(10ヶ月)25.7万台2.9%

(出典:欧州自動車工業会 ACEA)

なぜ「世界五大自動車メーカー」フォードは日本市場から撤退したのか?約100年前にはGMとともに日本市場の95%を支配した歴史を振り返る
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Ford-Capri (2)

Image:Ford

提携の核:ルノーの「Ampereプラットフォーム」を活用

今回の提携の最大のポイントは、フォードがEVの「開発と生産」の重労働をルノーに委ねること。

フォードはシャオミSU7を購入したり「中国製EV」の研究を行っていたことがわかっていますが、フォルクスワーゲンやアウディ、ステランティスのように「中国の新興EVメーカー」ではなく、既存欧州自動車メーカーを選択したところは注目に値します。

マセラティ
ステランティスCEO「我々が中国車に勝つには、我々自身が中国人にならなければ」。中国新興メーカーの株式を取得しそのノウハウを習得する戦略を採用

| たしかに同氏のいう通り、新しい時代に対応しなければ新しい時代で生き残ることはできない | それにはまず旧来のガソリン時代の考え方を捨てねばならない さて、現在欧州の自動車メーカーが悩まされている深 ...

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項目内容提携のメリット
生産・開発ルノーが主導し、フランス北部の工場で製造。フォードは開発期間を短縮し、市場投入を加速できる
プラットフォームルノーのEV部門「アンペール(Ampere)」のプラットフォームを使用。既存の技術を活用することで、コストを抑制できる
デザイン・性能フォードがデザインし、「本物のフォードブランドのDNA」と「明確な走行力学」を持つと主張。クルマの個性を維持し、単なるOEM(バッジエンジニアリング)以上の差別化を図る
Renault Twingo E-Tech electric - Absolute Greenのコピー7

Image:Renault

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2028年に登場する2車種のEV(予測スペック)

最初のモデルは2028年初頭に発売予定であるとされ、使用されるプラットフォームは小型EV向けの「AmpR Small」が有力視されています。

AmpR Smallはルノー・トゥインゴ / ルノー5にすでに採用されていますが、このプラットフォームは、VWのMEBプラットフォームをベースとしたエクスプローラーやカプリよりもさらに小型・低価格帯のクルマを実現することが可能となり、欧州の激しい小型EV市場での競争力を高める狙いがあるのは間違いのないところ。

予測モデル(有力)プラットフォーム既存の兄弟車(ルノー)役割(予測)
小型ハッチバックEVAmpR Smallルノー5 E-Tech, トゥインゴフィエスタの精神的な後継モデル
小型クロスオーバーEVAmpR Smallルノー4 E-TechKaプーマの下位を担うモデル
フォード「EVの販売1台あたりの赤字はさらに大きくなっている」。そのためフォードはEV製造を縮小しEV関連投資を縮小すると発表
フォードとVWとの「商用車における」提携に際し、フォード側で協議に要した時間は15分、しかしVWでは「2ヶ月」。この差が現在の状況の「差」を生んだのかも

Preproduction model shown. Available early 2025. Image:Ford | フォードは今でも創業者一族が最高の権限を持ち、意思決定のルートが集約されてい ...

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関連情報:ハイリスク・ハイリターンの戦略

1. 収益性の壁:高コストEVと利益率の課題

フォードにとって、この提携はリスクも伴っており・・・。

  • 開発コスト: EVは同サイズのエンジン車に比べ、依然として製造コストが高いのが現状
  • 利益率の懸念: フォードがルノーにEVの「重労働」を依頼している以上、その利益率は自社開発車よりも低くなる可能性がある

すでに失ってしまったセグメントへの投入なので自社の既存車種を侵食することはなさそうで、市場シェアは回復するかもしれませんが、収益性の回復には時間を要すると見られています。

Renault-5-E-tech-2

Image:Renault

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| ルノー 5 E-Tech エレクトリックは設計段階からしてその思想が全く異なり、新時代の発想に基づいて企画されている | これは単なる「リバイバル」「レトロフューチャー」モデルではない さて、ルノ ...

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2. 商用車分野での協業:盤石な足場固め

乗用車EVでの提携に加え、両社は小型商用車(バン)の共同開発・製造に向けた基本合意書にも署名済み。

フォードは商用車分野(トランジットシリーズなど)では依然として欧州で強い地位を築いており、ルノーと手を組むことで、この収益の柱をさらに強化し、EV時代における商用車市場での優位性を維持することを目指しています。

ルノーが新型トゥインゴを開発するため中国の自動車メーカーと提携との報道。今や「売れる」EVを開発しようとなると中国に頼るしかない?

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結論:失地回復に向けた「苦渋の決断」

フォードとルノーの戦略的提携は、欧州市場での生存をかけたフォードの「苦渋の決断」であり、「時間を買うための投資」です。

自社で膨大な投資と時間を費やすよりも、すでに競争力のあるEV技術(アンペール)を活用することで、失われた市場シェアの’急速な)穴埋めを狙っており、しかしフォードが主張する「独自の走行性能」をどこまで実現できるかが「単なるOEM車で終わらせず、ブランドの信頼を取り戻すための鍵」となりそうですね。

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参照:Ford

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