
Image:Renault
| これを使用できる状況は限られているが、それでも大きな効果を発揮することは間違いない |
この「無償化」は大きな功績として自動車史へと残ることになるのかも
さて、ルノーグループが特許取得済みの「ファイヤーマンアクセス」システムを”無料ライセンス政策を通じ、世界の自動車業界に提供する”と発表。
この技術を使用すると、電気自動車(EV)の火災を内燃機関車と同じくらいの時間で消火できるといい、自動車メーカーやパーツサプライヤーは、無料でこの技術のライセンスをルノーから取得できる、ということになりますね。
これは比較的大きな「自動車業界における進歩」だとも言ってよく、というのもEVにおいては”火災”がたびたび問題視され、それは「燃える」からではなく「燃えだすと消火が非常に難しい」から。
ルノーの考えたEV火災沈下システム「ファイヤーマンアクセス」はこうなっている
そこで今回ルノーが(消防サービスと提携して)考えた「ファイヤーマンアクセス」なる機能を見てみると、この主要部分は「バッテリーのケースにある開口部に貼り付けられたディスク」にて構成され、通常使用時にはその開口部を密閉しており、しかしバッテリーに火災が発生した場合に消防隊員がこのディスクにホースを当てると水圧によってこのディスクの弁が開くことに。
そしてこの弁を通じてセル内を水で満たして熱暴走による火災を防ぐという構造を持つものですが(熱暴走そのものは防げないが、水を満たすことで酸素を遮断し延焼を防ぐことはできそうだ)、消防隊が「この部分にアクセスできる」という条件付きではあるものの(つまり大きく燃え上がってEVに近づけないとどうしようもない)、EV火災に対する大きな進歩であると言えるかもしれません。
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なお、熱暴走はバッテリーがショートして過熱して非常に引火しやすいガスを放出することで始まり、そのガスが発火し1つのセルが熱暴走を引き起こすと他のセルもすぐにそれに続きます(連鎖反応が起きる)。
そして一度熱暴走が始まると、消防隊員は長い時間をかけ、かつ大量の水をもってEV火災と戦うことになり、クルマの近くにあるものも最悪の場合では損傷を受け、さらには「鎮火したように見えても」再び燃えだすこともあるとされ、要は通常のガソリン車の火災とは全く異なる性質を持つということになりますね。
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「安全向上に向けた革新は、ルノーの一部です。近年、消防サービスとのパートナーシップを築けたことを特に誇りに思います。ファイヤーマンアクセスは、製造業者としての専門知識と毎日私たちを守っている消防隊員の技術を組み合わせることで達成できる実践的な成果です。今日、この革新を無料で提供できることを非常に喜ばしく思います。安全に関する問題では、すべての障壁を取り払う必要があるからです。この取り組みは、国連と共に行った世界中でモビリティの安全性を向上させるというコミットメントにも沿ったものです。」
ルノーグループCEO ルカ・デ・メオ
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この取り組みは自動車業界の”伝説的な存在になる”としてボルボが考案し特許を無償公開したシートベルトに並ぶものになると見られていますが、現代のクルマに装着されるシートベルトはボルボのエンジニアであるニルス・ボーリン氏が1959年に発明したもの(それまではベルトのように、腰に巻くだけだったので、上半身を固定できなかった)。
その発明の際にボルボは特許を取得しており、しかしボルボはこの発明を独り占めする気はなく、より多くの命を守るために特許を無償にて公開することになるのですが、このシートベルトは100万人以上の命を守ったとされ、ニルス・ボーリン氏は「世界で最も多くの命を救った人物の一人」だとも言われています。
加えて、この3点式シートベルトは、ドイツの特許庁に相当する機関によって、「1885年からの100年間(1985年まで)において、もっとも人類に貢献した8大発明」に認定されているそうで、たしかにそれだけの価値は十分にありそうですね。
今回のルノーの発明は「EVが燃えたとき」にしか機能しないものの、それでも「今までは対処が難しかった」課題の一助となるのは間違いなく、より多くの自動車メーカーがこれを採用することを願わんばかりです。
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参照:Renault