
| フェラーリにとっての「テクノロジー」とは哲学を実現するための「手段」である |
フェラーリほど明確な思想を持つ自動車メーカーも珍しい
さて、先日は「フェラーリ296GTBの気になるところ」を紹介しましたが、今回はその逆の「気に入っている」というか「おお」と驚かされるところについて。
フェラーリというと「とびきり美しいが、品質やテクノロジー面ではライバルに一歩譲る」という印象があるものの、なかなかどうして、とくにテクノロジー面においてはライバルを圧倒する部分もあるもよう。
1.14インチの液晶メーター
まず取り上げたいのはこの「14インチ」という大きなサイズを持つカーブ液晶ディスプレイ。
しかも高い解像度を持っており、多くの自動車メーカーが「12.1インチ」のデジタルメーターにとどまる中、かなりのインパクトを持っていると思います。
そしてこれは「必要な情報を瞬時に読み取れるようにする」というフェラーリの(モータースポーツをバックボーンとする)哲学に基づいたものだと思われ、便利さを重視したというよりも、「機能性を重視したらこうなった」というところなのかもしれません(この液晶ディスプレイ、そしてサイズは目的ではなく手段である)。
2.シフトスイッチ
そして次はシフトスイッチ。
このスイッチ自体は「フェラーリが昔のマニュアル・トランスミッション車に採用していたHパターン」のシフトゲート、そして航空機のスロットルレバーとをかけあわせたものですが、今回ぼくが伝えたいのはそのデザインではなく「その動作」。
たとえばギアを「R(リバース)」に入れると、このレバーの後ろの溝のような部分に「赤いLEDが後方に向かって流れるように光り」、しかしこの「流れる」というのがミソであって、つまりは「単に光る」だけではないわけですね。
これは視覚的に大きなインパクトを与えるものですが、しかし重要なのは「ビジュアル的にイケてる」ということよりも、「そこに目がゆくことにより、その機能が動作していることがわかる」という実用上のメリットが得られることで、これもフェラーリが重視する「クルマの状態を、直感的に理解できるように伝える」という思想を反映させたものだと考えていいのかも。
そしてこの表示方法もまた「その哲学を実践するため、テクノロジーを活用した例」でもあり、メーターの「大きな液晶ディスプレイ」と同じであって、単なる見た目上のアピールではないのだと考えられます(流れるLEDを装備したかったわけではなく、LED表示を流れるようにしたのは、”リバースにギアが入っている”という情報を視覚的に伝えるための”手段”であったのだと思われる)。
参考までに、このパネルは初期の生産ロットではクローム仕上げ(上の画像)であったものの、ぼくの車両ではブラシ仕上げとなっているので、どこかで仕様変更があったようですね。
そしてもうひとつ参考までにローマ・スパイダーでは「マット」フィニッシュへ。
3.静電式(タッチ式)スイッチ
そして次は静電式スイッチの採用。
フェラーリはかなり早い段階からこれを採用しており(最初の採用はローマだと思う)、しかしその理由はちょっとナゾ。※ルーフ内張りの室内照明スイッチも静電式なので、フェラーリはこれにかなりのこだわりがあるようだ
ただ、このスイッチが並ぶステアリングホイールのスポーク部分、ステアリングコラム周辺には「車両の電源が入っていないときは真っ黒」で、電源を投入すると「その時に操作できるスイッチが浮かび上がる」という仕組みを持っているので、フェラーリとしては「(その時に操作できない)不要な表示を行ってドライバーを煩わせたくない」という理由にてこの静電式スイッチを採用しているのかもしれません(ロータスが発表した最新のコンセプトカーでも同様の理論が取り入れられ、その時に操作可能なボタンしか表示されない)。
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このあたりもまたフェラーリの「必要な情報だけを、瞬時に理解できるよう」伝えるという目的のもと設計されているのだと思われますが、こういった感じで「なぜ」を考えてゆくとそのクルマの設計思想を読み解くことができ、そのクルマに一歩近づけるような気がします。
ちなみに車両に電源が入っていない状態だとこう。
参考までに、フェラーリは重要な設計哲学として「両手はステアリングホイールに、目は路上に」というものを掲げていて、そのため「走行中の動作はすべてステアリングホイールを握ったままで行うことができ」「前方から目を離さずに走行中の情報を読み取ることができ、操作方法が直感的に理解できるよう」ステアリングホイールやメーターを設計しているのだと思われます(有名な、ステアリングホイールのグリップ上部に埋め込まれたLEDインジケーターはその代表例である)。
もう一つ参考までに、この「静電式」ステアリングホイールについてはあまり評判が良くなかったのか、最初は左右スポークについて「ツルツル(下の画像:ローマ)」であったものの、その後「スイッチのタッチ(による動作範囲)範囲がわかるよう」段差が設けられ、最新モデルでは「物理スイッチ」へと一部変更されているもよう。
要は「初期の仕様が使いづらかった」ということになりそうですが、この静電式スイッチについては、タッチ(物理スイッチだとプッシュ)のほか、指をスライドさせることで一部の操作が可能となっているため、より少ない面積でより多くの操作ができるというメリットもある反面、どうしても「スイッチ(機能)間での境界がわかりづらい」「ちょっと触れただけでも思わぬ動作をすることがある」という課題も感じられます。
その結果、けっこう短期間で「ツルツル」→「段差」→「物理スイッチ」へと変更されているわけですが、これは「同じ(使いづらいという)問題を抱えていたフォルクスワーゲンがタッチ式から物理式スイッチへと変更するのにかかった時間」に比較すると相当に短く、これは「フィードバックを元に素早いアップデートが明暗を分ける」モータースポーツに本籍を置くフェラーリならではなのだとも捉えています。
余談ではあるものの、296GTBのステアリングホイールはローマやポルトフィーノに比較して「細く」、この理由は不明ではありますが、その性質上「レーシンググローブを装着して握る」ことを考慮して細く設計されている可能性もありそうです。
4.リモコンキー
そして次は「リモコンキー」。
これは極めて特殊な形状を持っていて、このキーはいわゆるスマートキーであり、クルマに近づくと「持っているだけ」でロックが解除され、このキーを持ってクルマから離れると「自動でロックがかかる」というスグレモノ。※設定にてアクションの変更もできる
乗降の際に毎回キーを手に持つ必要がないので非常に便利な機能ということになりますが、「フェラーリがこんなところに気を使うようになるとは」という感じですね。
ただ、フェラーリは12チリンドリにて「ドアにソフトクロージャー機能を」「リアハッチに電動開閉機構を」与えており、ドライバーに極力負担を与えないようにする方向へと動いてゆくのかもしれません。
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参考までに、このキーはセンターコンソールに「はめ込む」ことができ、これもまた珍しい仕様。
ちみにこの「はめ込む」ことに機能的な理由、実用的な理由を見出すことはできませんが、しかしオーナーにとっては他に替えようがない満足感を与えてくれるものであると理解しています(ブランディング上、非常に重要)。※画像はSF90ストラダーレ
5.ドアミラー
最後は「ドアミラー」。
これは単に「視界に優れる」というもので、ドアミラーのハウジングが比較的横へと出っ張っているので(広い範囲を映すため)後方の確認が容易になっており、しかも「ちょっと前に」取り付けられているため、ドライバーが「大きく頭を振らなくても」左右ミラーに映り込む対象を確認することが可能です(前方向に出ないまま左右にだけ出っ張ると、ドライバーの首振り幅が大きくなる)。
さらには「Aピラーとドアの付け根あたりに取り付けられている」ローマ(下の画像)やポルトフィーノに比較すると右斜め前方、左斜め前方の視界を「塞いでしまう面積」が非常に小さく、運転時のストレスが大きく減少しているように思います。
これもまた「運転に集中できるように」というフェラーリの思想を反映したものではないかと考えていますが、フェラーリの「昔のクルマ」を見てもピラー類が細く、以前より視界の確保には強いこだわりを持っていることがわかりますね。※視界という点においては、296GTB含めてフェラーリ各モデルではダッシュボードの高さが抑えられており、前方の見晴らしがかなりいい
参考までに、スポーツカーというと「扱いにくくてナンボ」「それを御してこそ真のドライバー」「苦行を乗り越えてこそナンボ(文句言うな)」といった風潮がないでもないですが、実際のところ、ドライバーに負担なく速く走れるに越したことはなく、数々の特許を見るに、フェラーリが「扱いやすく速いクルマ」を目指していることは間違いない(ドライバーに負担を強いてまで速く走れるクルマを作ろうとはしていない)ことも理解可能。
特に耐久レースにおいて、ドライバーへの負担は集中力、ひいては勝敗に直接左右する要素であるとも考えられ、もしかすると499Pの快進撃はここにも理由の一端があるのかもしれず、そして「ドライバーの負担を軽減する方法」については、レーシングカーと市販車において共通する要素も見られるため、フェラーリにとっての「レーシングカーとロードカーとを隔てる垣根」は、他の自動車メーカーに比較すると、限りなく低いのかもしれません。
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