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見通しが甘かった?トヨタが「このままEV計画を進めると採算が合わない」として計画の見直しと一部停止。クラウン、コンパクトクルーザーの開発停止も

2022/10/25

トヨタ・クラウン

| ボクは常々、2021年末の「EV新戦略」は株価対策のポーズでしかないと考えていたが |

どう考えても、トヨタ含む日本の自動車メーカーのEVに対する姿勢は世界標準からかけ離れていた

さて、トヨタが「EVに関する戦略の見直しを検討している」との報道。

この見直しの方向性とは「トヨタが予想する以上に世の中ではEVの普及が進んでいて、EVに本腰を入れないと完全に置いてゆかれる」という危機感から来るものであり、これまでの計画を廃棄し、根本から見直して競争力のあるEVを作らねばならない、という内容です。

トヨタはかねてより「EVはそもそも顧客が欲しがっていない」「ガソリンはまだまだ残る」という観点から「EVもやるけど、主力はハイブリッド、そしてガソリンも残し、さらに水素も開発」というマルチパワートレイン戦略を採用しています。

ただしこれについては多くの株主たちが「そんなことを言っている場合ではなく、EVに集中しないと、世界的な流れに取り残される」という意見をモノ申してきたわけですね。

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実際のところ、トヨタはもう遅れを挽回できない可能性も

そして現在世の中で何が起きているかというと、テスラの急激な販売伸長、そして中国EVメーカーの躍進といった現象であり、一方トヨタはと言えばbZ4Xの販売が出遅れたために北米での補助金を獲得するチャンスを失い、そして中国においては自社の技術でEVを発売できず、中国の自動車メーカーから技術を借りてようやく「初の」エレクトリックセダンを発売しているものの、中国では「え?今さら?」という空気感となっています。

トヨタ
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世界的に見てみると、欧州ではステランティスが得意の小型車分野にてEVを投入していて、北米ではやはりアメリカの自動車メーカーが市場の好みと自社の強みを活かしたエレクトリックトラックにて市場を席巻しつつあり、ある意味ではテスラに一矢報いていると言っていいかもしれません。

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ただしトヨタはそこで存在感を一切発揮できず、2025年という、そう遠くない将来において、EVの販売シェアではフォードやGMはもちろん、中国の自動車メーカーにも太刀打ちできずに10位に甘んじるだろうというレポートもあるほどです。

トヨタC-HRの中国版

つまり、すでにトヨタの居場所はなくなりつつあると考えてよく、現時点において、仮に「他社と同じ性能」のEVを発売してもシェア獲得は難しく、よって「他社よりも高性能で、他社よりも安価な」EVを発売しなければ、この状況を挽回することが困難だとも考えられます。

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ガソリン車ではその「信頼性」、その後はハイブリッドの市場投入によって自動車業界に革命を起こしたトヨタではあるものの、この「100年に一度の変革期」において完全に出遅れてしまっていて、誰もトヨタの存在など気にかけなくなってしまう時代となる可能性もあるわけですね。

そしてもし、このまま(世界中で)電動化が急激に進み、トヨタがシェアを失ったとなると、これは「ガソリンに固執し、電動化を軽視した」豊田章男社長が責任を取る必要があることは間違いなく、トヨタ史において、もっとも不名誉な形でその名を残すことになるのかもしれません。

今後トヨタはいったいどうする?

そこで今後のトヨタの「計画見直し」について、簡単に言えばこれまでの計画を(ほぼ)白紙撤回し、将来を見据えてイチから価格競争力の高いEVを作るということ。

現に、2021年11月に発表した「2030年までにEVを30車種」という計画の一部は停止されているといい、具体的には「クラウン(EV版)」「コンパクトクルーザー」の開発もストップされたと報じられています。

いやいや電動化を進めるなら計画を停止せずにさらに加速させればいいじゃない?と思ってしまいがちですが、計画をいったんストップさせるのは、現在トヨタが持つEVプラットフォーム(e-TNGA)やコンポーネント類はコストが高く、設計そのものも非効率的であり、これらを使用してEVを作っても競争力がある製品とはならず、結局は売れない製品となることが予想され、であれば思い切って全部チャラにしてしまい、新しく「価格競争力の高い」EVを設計すべきであるという考え方。

ではなぜ「コストの高い」EVをわざわざ作っていたのかというと、上述の通りトヨタは「まだまだガソリンエンジンは残る」と考えていて、e-TNGAについてガソリン車やハイブリッド車と同じ生産ラインで製造を行えるように設計していたわけですね。

トヨタ

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ただ、この方法だと製造そのものが非効率的であり、つまりはコストがかかってしまうとされ、現在競争が激化し、車両価格がどんどん下がってきているEV業界においては「このままでは他社にとうてい対抗できなくなる」という危機感が上層部を中心に、そして急激に拡散していると報じられています。

ちなみにe-TNGAプラットフォームは350万台を販売すれば採算が取れるという想定だそうですが、現在の価格設定では350万台などとうてい売ることはできず、よって(トヨタ関係者いわく)「収益のめどが全く立たない」。

これについては「EVの普及が想定よりも早い」こと、「テスラなど競合が新しい技術を導入し競争力を強めている」ことが原因だといい、トヨタ関係者いわく「目論見がまったく外れた」。

これからの時代、半端なことでは生き残ってゆけない

つまりトヨタは「(過渡期的で)半端なEV」でいいだろうと考えていたものの、他社は「本気のEV」を作っており、このあたりの温度感の差が、今回の「計画見直し」の根本の原因ということになりそうです。

なお、トヨタがマルチパワートレイン戦略を採用したのは、トヨタ自身が「ガソリンはまだ生き残る」という甘い見通しを立てたことが根本にあるのは間違いなく、しかし急激に電動化を進めると、サプライヤーはじめ多くの企業や人々が職を失うという配慮からだとも考えられ(豊田章男氏は自工会の会長でもある)、しかしそれは「前に進むにあたり、なにかを切り捨てることができなかった」同氏の判断が必ずしも正しくなかったこと、そしてむしろ、中途半端な配慮によって将来的により多くの人が職を失うであろう可能性を示唆しています。

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そして今がまさにその時だと考えられ、よってランボルギーニやフェラーリも容赦なくガソリン時代の功労者を切り捨てており(トヨタに近い立場であれば、ヒョンデも同様の行動を取っている)、メルセデス・ベンツ、ベントレー、フォルクスワーゲン、ロータスなどはガソリン車の組立工場をEV専用へとまるごとトランスフォームし、これまでのガソリン車の開発や製造を行っていた人々も強制的に「電動化部門」へと配置転換、もしくはついてこれないようであれば「去ってもいい」というスタンスを貫いています。

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トヨタはテスラの技術についても導入を検討

そしてトヨタはすでに今年半ばには「検討チーム」を設置していたといい、来年はじめまでに新EV戦略を検討すると報じられていて、ここでは「e-TNGAを捨てて出直すか」「e-TNGAを使い続けるか」を検討するそうですが、テスラが導入した「ギガプレス」の導入についても検討するとされています。

このギガプレスは「それまでの自動車の車体を成形するのに必要だった複雑な工程や多数のパーツを」大幅に短縮できる製造方法であり、これを導入することで価格競争力のあるクルマを作ることが可能となるわけですね。

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参考までに、トヨタとテスラは過去に提携していたことがあり、2010年にはトヨタがテスラの株式5000万ドル分を取得したことも。

ただし「どうにも埋めることが出来ない文化のギャップ」が存在しているとして2016年7月には提携を解消し、その後テスラの株式すべてを売却していますが、2016年時点でのテスラの株価は16ドルくらい。

テスラ

2010年の株価は1.13ドルなので、これでもトヨタは十分に儲けたということになりますが、上述の通り現在では303ドルであり、つまり「16ドルで売らずに(売却額は不明ですが)今まで持っていたら、5000万ドル分のテスラ株が264倍(132億ドル)になっていた、ということに。

そして今、トヨタの関係者は「当時は、テスラから学ぶものはないと考えていた」と語っていますが、テスラが生産性を最重要視しているのに対し、トヨタは当時から別の方向を見ており(それが悪いというわけではない)、これが両者を分けた決定的な違いなのかもしれません。

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このほか、具体的に競争力向上策として報じられているのがアイシンの開発による第3世代のe-AXLE(すでにbZ4Xのパワートレインの半分にまで小型化)、そしてモーターの熱を空調に転用するシステム(すでにテスラは導入済み。これによって暖房にかかる電力を節約できる)。

ただしこれらも他社をリードできるものとはいえず、強豪の「後追い」でしかないために決定打とならないことは間違いなく、そして「新しいプラットフォームの開発には2年、そこから車両の開発には3年」を要するというので、トヨタがここから巻き返すことは容易ではないかもしれません。

しかし「本気になった」トヨタがいったいどれくらいの力を見せるのかも見てみたいという気持ちもあり、ここからの巻き返しにも期待したいところですが、もしもトヨタがテスラと提携を行った際(2010年)に「これからは電動化社会になる」と判断し、全力を挙げてエレクトリック化に取り組んでいたならば、今ごろはテスラを凌駕し、自動車業界における革命を再度起こしていた可能性もありそうですね。

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参照:Reuters

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