| メルセデス・ベンツは自社のEVが売れずとも「影の支配者」としての地位を強めている |
一方フェラーリはこの状況から脱却し自社でエレクトリックモーターを製造するもよう
さて、自動車メーカーにとって「意外な収益源」となるのが「パワートレーンの供給」。
フェラーリがマセラティにV8エンジンを提供していたことはよく知られており、アウディやBMWもドンカーブートやモーガンに対しエンジンを与えていますが、そんな中でもメルセデス・ベンツは「意外にも多くの自動車メーカーに」エンジンを供給していて、パガーニ向けとしてV12ツインターボ、アストンマーティンにはV8ツインターボ、ロータス向けとしては4気筒エンジンを納品しています。
そして電動化時代に入り、メルセデス・ベンツはより多くの自動車メーカーへとエレクトリックモーターを提供することで収益を上げることができるかもしれません。
メルセデス・ベンツはエレクトリックモーター製造企業、「YASA」を傘下に収める
メルセデス・ベンツは2021年にエレクトリックモーターの製造・開発企業であるYASA(ヤサ)を買収し傘下に収めていて、このYASAが生産するエレクトリックモーターはケーニグセグ、フェラーリSF90ストラダーレ/スパイダー、そして296GTB/296GTSにも搭載されており、つまりは「スーパーカーやハイパーカーの定番とも言えるエレクトリックパワーユニット。
そしてランボルギーニの新型スーパーカー、レヴエルトとテメラリオにもこのYASA製エレクトリックモーターが採用されているのですが、これらはすべてアクシャル・フラックスモーターと呼ばれるもので、非常に軽量そしてコンパクトな形状を持つことが特徴です。※レヴエルトに関しては、リアモーターのみマーレ製
Image:Mercedes-Benz
これらは非常「薄く」、よってエンジンとトランスミッションとの間に挟み込むことが可能な上、こんな感じで連結して「横置き」とし、前後アクスルに2つのモーターを設置することや・・・。
Image:Koenigsegg
インホイールモーターとして使用することも可能です。
Image:Mercedes-benz
しかしメルセデス・ベンツはまだこのアクシャル・フラックスモーターを使用した市販車を発売していない
そしてユニークというか皮肉な事実が「メルセデス・ベンツはまだこのアクシャル・フラックスモーターを自社のクルマに装着したことがない」。
このYASAのエレクトリックモーターがはじめて市販車に採用されたのは2016年のケーニグセグ・レゲーラで、その後にSF90系、296GT系へと続くわけですが、メルセデス・ベンツがYASAを買収したのが2021年なので、時系列的にはまだメルセデス・ベンツがYASAのエレクトリックモーター装着を前提とした設計を持つクルマを作ることができていないのも当然かもしれませんね。
参考までに、市販車以外でYASAのエレクトリックモーターを採用したのは2010年に発表されたジャガーC-X75「コンセプト」、その数年後にはローラ・ル・マン・プロトタイプのEVコンバージョン車が、1,000kg未満の車両による電気自動車の陸上速度記録を樹立しいています(ローラ・ドレイソンのB12/69EVは、イギリス・ヨークシャーのRAFエルヴィントンで328km/hを記録し、40年以上保持されていた282km/hの記録を破っている)。
Image:Mercedes-benz
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そこでメルセデス・ベンツに話を戻すと、そのパフォーマンス部門であるAMGは現在、専用となる「AMG.EA」プラットフォームを開発しており、これがAMG GT 4ドアクーペの後継車、そして先日アナウンスされた大型電動SUVに採用されるものと見られます。
もちろん両者ともYASA製アクシャル・フラックスモーターを搭載すると予想され、2023年に示された「ビジョン・ワン・イレブン」コンセプトの「技術的な再現」と言えるかもしれません。
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こういった感じで、YASA製のエレクトリックモーターは今後もスーパーカーやハイパーカー、ハイパフォーマンスカーにおける「標準」となる可能性があり、実際にランボルギーニはこのYASA製モーターを使用し続ける可能性を示唆しています(ただしレヴエルト、テメラリオに積まれるYASA製モーターは汎用品ではなく、それぞれの仕様にあわせた特注品である)。
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よって、メルセデス・ベンツがYASA社を買収したのは「先見の明があった」と評価せざるを得ませんが、このほかにもエレクトリックモーター製造企業が数多く存在し、ランボルギーニは(ブランド初のEVである)ランザドールについてはYASA製ではなくグループ内企業からエレクトリックモーターを調達するともコメントしていて、テメラリオ/レヴエルトとランザドールとでモーターを使い分ける理由はちょっとナゾ(パッケージング、出力や効率、PHEVとEV、コストなど様々な問題があるのだと思う)。
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いずれにせよ、電動化時代に入って「パワートレーンのサプライヤー」が絞られることとなり、ガソリンエンジン時代のように「自社でパワートレーンを製造する」ことが当然であった時代は終わりを告げるのかもしれません。
ただしフェラーリは「エレクトリックモーターといえど、パワートレーンは自社で作らねばならない」という信念を掲げていて、つい先日竣工した「EVビルディング」においてバッテリーセル、そしてエレクトリックモーターを「自社で製造する」ともアナウンスしており、この流れに乗らない自動車メーカーも出てくるものと思われます(フェラーリ初となるEVは自社製エレクトリックモーターを搭載する予定である)。
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