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| 911GT3は、単なる速いクルマではなく、ドライバーの感性に訴える真のスポーツカーである |
今後どんな環境の変化があろうとも、そのスピリットは変わらないであろう
ポルシェ911 GT3は、サーキット直系の高性能スポーツカーとして世界中のファンを魅了していますが、初代996型から最新の992型(2025年モデル)まで、各世代の進化、スペック、トランスミッション、特徴をわかりやすく解説してみます。
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ポルシェ911GT3はこんな進化を遂げてきた
初代ポルシェ911 GT3(996型):1999〜2005年
- エンジン:3.6L 自然吸気フラット6
- トランスミッション:6速MT
- 駆動方式:後輪駆動
パワー:初期は360馬力、フェイスリフト後(996.2)では381馬力 - 日本国内新車価格:14,899,500円
- パフォーマンス:0-100km/h加速 4.8秒、最高速302km/h(前期) 0-100km/h加速 4.5秒、最高速306km/h(後期)
- 車体重量:1,380kg
- ニュルブルクリンクのラップタイム:7分56秒(前期) 7分50秒(後期)
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日本市場では2000年から、アメリカ市場では2004年モデル(996.2)から導入され、アメリカ市場では2年間限定で販売されていますが、996.2世代では911GT3 RSに「ナナサンカレラ」を意識したルックスが採用され、これ以降「ナナサンカレラ風」は911GT3 RSにおける「定番」となっています。
ちなみにですが、996世代における「素材の軽量化」に関しては「アルミニウムの使用」が主な手段であり、つまりカーボンファイバーはまだ一般的ではなかったものの、996.2世代の911GT3 RSではカーボンファイバーが積極導入されており(フロントフードやウイングなど)、同時に軽量ガラス(樹脂製ガラス)も導入済み。
そしてこれらの素材や技術は以降の911GT3にも取り入れられるようになります。
第2世代 ポルシェ911 GT3(997型):2007〜2011年
997.1型(2007〜2008年)
- エンジン:3.6L NA フラット6
- パワー:415ps
- トランスミッション:6速MT
- 日本国内新車価格:15,980,000円
- パフォーマンス:0-100km/h加速 4.1秒、最高速310km/h
- 車体重量:1,420kg
- ニュルブルクリンクのラップタイム:7分40秒
997.2型(2010〜2011年)
- エンジン:3.8L NA フラット6
- パワー:435馬力
- トランスミッション:6速MT
- 日本国内新車価格:17,660,000円
- パフォーマンス:0-100km/h加速 4.1秒
- 車体重量:1,440kg
- ニュルブルクリンクのラップタイム:7分33秒
997世代の911 GT3は、自然吸気エンジンならではのレスポンスと、6速マニュアルトランスミッションによるダイレクトな操作感が魅力ですが、特に後期型ではエンジンの進化と、より洗練されたシャシーによりその魅力が増しています。
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なお、997.2世代の911GT3 RSにてオプション導入された「コントラストカラー」のインパクトが強く、「やっぱりポルシェはモータースポーツ直系の自動車メーカーである」と再認識させられることに。
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第3世代 ポルシェ911 GT3(991型):2014〜2019年
991.1型(2014〜2016年)
- エンジン:3.8L NA フラット6
- パワー:475馬力
- トランスミッション:7速PDKのみ
- 日本国内新車価格:21,150,000円
- パフォーマンス:0-100km/h加速 3.5秒、最高速度 314km/h
- 車体重量:1,430kg
- ニュルブルクリンクのラップタイム:7分30秒
マニュアルトランスミッションは一時的に廃止されましたが(先代がMTのみだったのとは対象的である)、9,000rpmまで回るエンジンが話題に。
なお、MTを廃した理由については「販売比率が小さくビジネス的に割が合わないから」「速く走るにはそもそもMTは不要だから」だとされています。
ちなみに「リアアクスルステアリング」が導入されたのもこの世代からですが、それまでの911GT3が主に「軽量化、パワーアップ、固めた足回り」という古典的な手法によってサーキットにおけるパフォーマンスを向上させていたのに対し、この991世代では「テクノロジーを用いて」、つまり最新技術によって速さに磨きをかけるといった側面が強くなったように思われます(車両制御技術の向上によって物理の法則を捻じ曲げることができるようになったからであろう。実際に991.2からはニュルブルクリンクのラップタイムが飛躍的に短縮されている)。
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991.2型(2018〜2019年)
- エンジン:4.0L NA フラット6
- パワー:500馬力
- トランスミッション:6速MT & 7速PDK
- 日本国内新車価格:23,900,000円
- パフォーマンス:0-100km/h加速 3.3秒、最高速度 318km/h(PDK)、0-100km/h加速 3.9秒、最高速度 320km/h(MT)
- 車体重量:1,430kg(PDK) 1,418kg(MT)
- ニュルブルクリンクのラップタイム:7分12秒7
マニュアル トランスミッションが復活し、ファンの期待に応えたモデルではありますが、「速く走ること」がトッププライオリティであり、それ以外のことは重要視していなかったポルシェが「PDKよりも遅くとも、”楽しさに勝る”MT」を導入したことはひとつの大きな転換であったとも考えられ、同時にここから「レトロ路線」を採用することでヘリテージの活用を行うようになったのだと認識しています。
なお、この991.2世代から「リアウイングを廃止し、ボディカラー同色部分を増加させてコントラストを緩和した」ツーリンググレード、そしてオプションとしてヴァイザッハ・パッケージが導入されています。
このヴァイザッハパッケージは、軽量化とパフォーマンス向上を目的としたもので、カーボンファイバー製のパーツ(フロントリッド、ルーフ、リアウイングなど)やマグネシウムホイールなどが含まれています。
現行ポルシェ911 GT3(992型):2022年〜現在
- エンジン:4.0L NA フラット6
- パワー:510馬力
- トランスミッション:6速MT or 7速PDK
- 特徴:新デザインLEDライト、アンダーボディエアロ、サーキット志向のサスペンション
- 日本国内新車価格:28,680,000円
- パフォーマンス:0-100km/h加速 3.3秒(PDK)、3.9秒(MT) 最高速 318km/h(PDK) 320kmh(MT)
- 車体重量:1,418kg(MT) 1,435kg(PDK)
- ニュルブルクリンクのラップタイム:6分59秒927
先代から出力が大きく向上していないものの、これは「排ガス規制」に対応したためで、「ターボ」「ハイブリッド」を採用せずにこれをクリアしようとしたポルシェの苦労が伺えます。
ただしポルシェは以前から「パワーに頼らず」速く走ることを考えてきた自動車メーカーであり、この992世代のGT3では「標準モデルからの大きな進化」が見られます。
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たとえばフロントサスペンションだと「マクファーソンストラット」から「ダブルウィッシュボーン」へと変更され、これによってキャンバー剛性が高まり、よりダイレクトで正確なステアリングフィールと優れたロードホールディング性能を実現しています。
これは、GTレースカーである911 RSRの技術をフィードバックしたもので、GT3が「よりレーシングカーに近くなった」ことを意味します。
このほか、カーボンファイバー製のフロントリッドやリアウイング、軽量ガラスなどを採用して徹底的な軽量化が図られていること、スワンネック型リアウイングや大型のリアディフューザーなど、レースカー直系の空力パーツを装備することもこの世代の特徴ですね。
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こうやってポルシェ911GT3 各世代の進化を見てみると、991.2型から大きくその方向性が変わったように思われ、それは上述のように「テクノロジーの進歩によって、それまでの常識を覆すことができるようになった」からだとも思われます。
それまでは「911ターボは技術の見本市、911GT3は”削れるものは削ってピュアさを研ぎ澄ます”」というイメージが強かったものの(つまり911ターボは足し算によって速くなり、911GT3は引き算によって速くなる)、991.1世代ではおおよそ「物理の法則上での限界」に達してしまい、さらには自然吸気エンジンの限界、軽量化の限界」にも及んでしまったため、ポルシェはこれを乗り越えるために様々な新技術(車体制御のみではなくダイレクトエンジンマウントなど)を取り入れることで(つまり引き算だけではなく足し算によって)先に進もうとしたのかもしれません。
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ただ、それでも現在は「素材や車両制御技術」に関しては再び頭打ちとなっている可能性があり、さらに追い打ちをかけるのが環境規制。
そしてこの環境規制をクリアするためには「ターボ」「ハイブリッド」の導入が避けられないという報道もあり、今後の911GT3がどこまで「純度」を保てるのかには注目が集まります。
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