
| ポルシェ、第三のハイブリッドシステムを開発中か |
PHEV、T-ハイブリッドに次ぐ「新しい」ハイブリッド
ポルシェは現在、パナメーラとカイエンに積まれるE-ハイブリッド(PHEV)、そして911カレラGTSや911ターボに組み込まれる軽量なT-ハイブリッド(非PHEV)という2種類のハイブリッドシステムを展開中。
しかしポルシェはそれでは満足しておらず、CarBuzzが報じたところによると、ポルシェは新たに「軸流モーター(Axial Flux Motor)」を利用したハイブリッド駆動システムの特許を出願したもよう。
これは従来のレイアウトを超える”革新”であり、エンジンをドライバーの後方に搭載するスポーツカー(つまり911や718など)にも適した構造とされています。
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軸流モーターとは?―高出力・小型化のカギを握る技術
従来のPHEVに採用されるモーターは「ラジアル型(Radial Flux)」で、モーターを円筒状に配置する一般的な方式です。
これに対して、ポルシェの新特許で用いられる軸流型(Axial Flux)モーターは回転軸に対して「円盤状」に磁界を形成するタイプ。
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Image:YASA
その最大のメリットは圧倒的な薄さと高出力密度だとされ、たとえばメルセデスAMGが傘下に収めるYASA社の最新プロトタイプでは、わずか8cmの厚さにもかかわらず1,000馬力を発生し、重量も約13kgという驚異的な軽さを誇ります。
この特性を生かせば、エンジンとトランスミッションの間、つまりデュアルマスフライホイール内部にモーターを収めることが可能となり(ある意味ではフライホイールを電動化するようなもの)、これによって車体を長くすることなくハイブリッド化が実現できるわけですね。
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DCTと組み合わせた“純スポーツ向け”レイアウト
ポルシェの特許では、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)との組み合わせが想定されており、このDCTは入力軸が長く、リアミッド/リアエンジン車への搭載に最適とされる一方、ポルシェは「トルコン式ATやMTとの組み合わせは”不明または非現実的”」としています。
つまりこの構造は、911や718のようなリア搭載スポーツモデル専用のハイブリッド技術と見るのが自然であり、ポルシェが目指すのは「燃費改善よりもレスポンス向上と高回転域での出力拡張」に重点を置いた“パフォーマンスハイブリッド”ということになるのかもしれません(ガソリンエンジンを高回転型に設定し、そこで失われる低回転域でのトルクをエレクトリックモーターに補ってもらうという考え方)。
Image:Porsche
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プラグインではない?その理由
このシステムはいわゆるPHEV(プラグインハイブリッド)ではない点も重要で、エンジン出力軸とトランスミッション入力軸がモーターのローターと直接結合されており、どちらかが回転すればそれ以降の全体が回転して駆動力を発生させる構造。
理論上、エンジンを停止してエレクトリックモーターのみでの走行も可能ですが、フリクションが大きく現実的ではないとされています。※加えて、そのフリクションをカバーするだけの電力を供給するだけの大きなバッテリーを積む予定がないのかも
つまりこの技術は、電動ターボやアシストモーターのような補助的ハイブリッドとして機能する見込みであると考えられ、システム全体を簡素化しつつ、出力とレスポンスを最大化する方向に振られています。
シンプルな構造、優れた冷却性能
特許資料によれば、このシステムにはオイル-ウォーター式熱交換器を採用し、エレクトリックモーターとトランスミッションが同じ冷却回路を共有するもよう。
冷却水はエンジンのラジエーターを通して循環するため、構造がシンプルでメンテナンス性も高いと説明されており、これは911GT3のような高回転・高出力車、かつサーキット走行を前提とした軽量なスポーツカーにとって大きな利点となるはずで、ここからも「ポルシェは911GT3のためにこのハイブリッドシステムを開発したのかも」ということが推測されます。
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「GT3」への応用が現実味を帯びる理由
ポルシェのGTSグレードでは、すでにターボラグを抑制する電動アシスト(T-Hybrid)を採用しています。
しかし今回の軸流モーター方式は、ターボチャージャーを使わずとも、高回転・高出力・軽量化を同時に実現できる可能性を秘めていて、つまり、「ターボを搭載せずに電動化でパワーアップするGT3」という構図が現実のものとなるかもしれません。
電動アシストによる瞬時のトルク補正と軽快なエンジンフィールを両立すれば、自然吸気エンジンを維持したままの911GT3“電動進化版”が誕生する可能性も見えてきます。
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コストと量産化の壁
もちろん、軸流モーターはまだまだ高価なコンポーネントであり、量産化には課題が残ります。
それでも軽量・高効率という特性は、スポーツカー開発において大きな魅力であることは間違いなく、さらには「目的の実現を安易な方法に頼らない」ポルシェだけに、今後の911GT3を(環境規制に対応させるため)ターボ化ではなく「自然吸気のまま」電動化するという行動には賛同が集まる可能性も。
ポルシェが今後この技術をどのように実用化していくのか、次期911や718のハイブリッド仕様にも注目が集まります。
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参照:CarBuzz


















