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メルセデス・ベンツがBMWとレクサスから「トップ奪還計画」を表明。そもそもなぜトップから3位に陥落したのか

メルセデス・ベンツ

| メルセデス・ベンツは「電動化戦略」が裏目に出ることでライバルに対して「後塵を拝する」結果に |

かつての王者がいまでは「3位」に

  • 目標は年間40万台: メルセデスは2020年代末までに米国で現在の約1.3倍にあたる年間40万台の小売販売を目指す
  • 首位奪還への障害: 2018年以降、BMWとレクサスに後塵を拝し、現在は3位に転落。高価格帯重視戦略が裏目に
  • 戦略の鍵は「両輪」: EV化推進に加え、米国顧客向けに6気筒・8気筒の内燃機関(ガソリン車)を再強化する柔軟なパワートレイン戦略を採用
  • 屋台骨の再強化: GLC、GLE、GLSといった主力SUVの販売比率を現在の40%から55%に引き上げ、基盤を固める
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なぜメルセデス・ベンツは米国市場で「王冠」を失ったのか?

かつて米国プレミアムカー市場での王者であったメルセデス・ベンツはありますが、2018年を最後に首位の座を明け渡し、現在ではBMWとレクサスに次ぐ第3位に甘んじているというのが現状です。

そして今回、この状況を打開するため、メルセデス・ベンツは2020年代末までに年間小売販売台数を40万台に引き上げるという極めて野心的な目標を掲げたわけですが、これは昨年の販売台数から約10万台、実に3分の1以上を増やすという大胆な挑戦です。

メルセデス・ベンツUSAのCEOであるアダム・チェンバレン氏はこの目標につき「目指すべき北極星(North Star)」、そして「士気を高める雄叫び」であると表現し、達成への強い意欲を示しているようですね。

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高価格帯集中戦略の代償

ディーラー幹部によると、メルセデス・ベンツの販売が後退した主な原因は、近年AMGやマイバッハといった「トップエンドの高級車」に焦点を当てすぎた点にあると指摘されています。

「メルセデスはBMWやレクサスがより手の届きやすい、販売台数の多い層に飛び込むのを許してしまった」

「これが販売台数とリース契約の獲得率を傷つけた」

(ディーラー関係者談)

つまり、高収益を追求するあまり、市場の大部分を占める「手頃な価格帯の高級車」のボリュームゾーンを取りこぼしてしまったというわけですね。

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なお、メルセデス・ベンツは一時期「Aクラス、Bクラス」を中心としたエントリーモデルの拡充を図っていたものの、CEOが現在のオラ・ケレニウス氏へと交代した後、「AMG」「マイバッハ」「Gクラス」そして高価格帯へと集中し”台数よりも1台あたりの収益性”を重視するようになり、ここで「ファン離れ」が生じたということになりそうです。

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メルセデス・ベンツが「エントリーモデルのラインアップを縮小」したのは「競争が厳しく収益性を確保できない」からですが、エントリーモデルはそのブランドに新しい、そして若い客層を呼び込むという役割を担っており、そして若い客層は「一旦そのブランドに入った後」、収入の増加とともにより上の価格帯のクルマを購入してくれる”ロイヤルカスタマー”となる可能性を秘めていて、一見してコストがかかるように見えようとも、ここは「実はおろそかにできない」セグメントなのかもしれません。

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そのほかにはこういった「要因」も

なお、ぼくが「メルセデス・ベンツが勢いを失った」理由はほかにもあると考えていて、まずは「電動化偏重政策」。

これは方々で報じられているとおりではありますが、(ほかのいくつかの自動車メーカー同様)電動化以外の選択肢を狭めてしまい、しかし電動化車両が受け入れられなかった、ということに。

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そしてもうひとつは「デザインの陳腐化」。

メルセデス・ベンツは「デザイナーの寿命が長い」ことでも知られており、ここ最近はずっとゴードン・ワグナー氏がチーフデザイナーのポジションに就いているために「大きくデザインが変わらず」、よって目新しさが薄れているのではとも考えています。

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一方のBMWは「成功している時ほど変革が必要」としデザインを絶え間なく変化させており、レクサスも同様だと認識していますが、メルセデス・ベンツが再起を図るのであれば、まずはその外観から変えたほうがいいのでは、というのがぼくの認識です。

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メルセデス・ベンツの反撃戦略:EVと「ガソリン」の二刀流

まずメルセデス・ベンツの巻き返し計画の核となるのは、「多様なパワートレインの組み合わせ」と「主力車種への回帰」。

1. 内燃機関の再強化(V8エンジン復活)

メルセデス・ベンツは、EV化を推進しつつも、米国市場の根強い需要に応えるため、内燃機関への姿勢を柔軟に見直します。

  • CLAからスタート: 12月に登場する次期型CLAをはじめ、今後のモデルは「バッテリー専用(EV)」と「ハイブリッド」の両方が用意される
  • 「両方」が答え: チェンバレンCEOは「どちらか一方ではなく、両方だ」と明言。EVの価格設定もガソリン車と「同じ価格帯」に設定し、顧客の選択肢を広げる
  • 米国を意識したエンジン: 米国の消費者が好む6気筒および8気筒の大型エンジンを再びラインアップに加えることでパフォーマンス志向の顧客を呼び戻す狙い。これはEV一辺倒ではない、現実的な市場戦略への回帰を示している
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2. 主力SUVラインアップの集中強化

次にメルセデス・ベンツは米国市場のトレンドであるSUVへの依存度を高める計画を持っており、GLC、GLE、GLSといったコアなSUVモデル群に刷新と大幅な投資を行うことで、これらが販売の成長エンジンになると見込んでいます。

車種概要2020年代末の販売比率目標
GLCコンパクトSUV主力55%(昨年の約40%から大幅増)
GLEミッドサイズSUV
GLSフルサイズSUVフラッグシップ
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加えてチェンバレン氏は「これらのクルマには、成長を牽引する巨大なチャンスがある」と述べ、主力車種のテコ入れが40万台達成の基盤になると強調しています。

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競争激化する米国高級車市場と今後の見通し

上述の通り、メルセデス・ベンツが年間40万台という目標を達成するには約10万台の販売増が必要です。

これは、競合であるBMWやレクサスが簡単に譲るはずのないパイを奪い取ることを意味しており、しかし今回の発表を見る限りでは「他社の後追い」的な要素が強いように思われ、今回の戦略が奏功するかどうかは「慎重に成り行きを見守る必要がある」のかも。

競合他社の動向

  • BMW: セダンからSUV、そしてEVまで幅広いラインアップを揃え、さらにはマルチシリンダー大排気量エンジンを守り続けることで市場のニーズに対応しており、かねてより進める「マルチパワートレーン戦略」によって多様な選択肢を展開中。※メルセデス・ベンツの戦略修正はBMWの成功パターンに近づくことを意味する
  • レクサス: 伝統的な信頼性とディーラー網の質の高さによって手堅く米国市場での地位を確立。ハイブリッド中心の展開によって顧客の支持を集める
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メルセデス・ベンツの新戦略は、単なる選択肢の増加ではなく、「トップエンドの豪華さ」と「大衆が求めるボリューム帯」の両立を目指す現実的なもの。

特に内燃機関の復活は、EV需要の減速が指摘される現在の市場において「顧客を繋ぎ止めるための重要な一手」となるかもしれません。

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メルセデス・ベンツがこの大胆な「北極星=ノーススター」計画を達成し、米国高級車市場の王冠を取り戻せるのかどうか、今後数年の車種展開と販売戦略の実行力が試されるいった段階に差し掛かっています。

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