
Image:Porsche
| 歴史は時に面白い「予想外」を生み出すことがある |
今思えば、ポルシェは「英断」を下したと考えていい
さて、ポルシェといえば「911」というイメ―ジが強いものの、これまでの歴史の中では911に取って代わろうとした存在、そして911を支える「脇役」として多くのクルマが発売されています。
そしてポルシェは、世界で最も粘り強く、かつ先進的なパフォーマンスメーカーのひとつとしても知られますが、60年以上にわたって911というモデルを徹底的に進化させ続けてきたことがその証であると言っていいかもしれません。
そしてポルシェがここまで成長できたのは、自社ブランドの優れたクルマを販売してきたからだけでなく、他社のクルマ作りにも深く関わってきたからという歴史があり、実際にメルセデス・ベンツ「500E」、アウディの初代RSモデル「RS2」はいずれもポルシェが開発に深く関わり、そしてポルシェの工場にて最終組み立てが行われたクルマです。
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ポルシェ924は、もともとVWのために設計されたクルマだった
そしてポルシェとほかの自動車メーカーとの関係性は多岐にわたり、その中では「もっとも予想外」なクルマが誕生したことも。
その代表例が「924」──もともとポルシェのバッジがつく予定すらなかったクルマです。
まずその背景から説明してゆくと、1970年代初頭、世界はオイルショックに揺れており、ガソリン価格の急騰によって多くの人々は燃費の悪いスポーツカーを敬遠し、より効率のよいクルマへとシフトしていたわけですね。
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そして(今では信じられないことに)911のような高性能車は、多くの人にとって「現実的ではない」選択肢となってしまい、ポルシェは「911以外の」安価で燃費に優れるクルマの開発を迫られていたのがこの時代。
その頃、時を同じくしてフォルクスワーゲン(VW)はポルシェと共同でスポーツカーを開発していましたが、オイルショックの影響でその計画を中止することに。
ポルシェは(上述の事情もあり)この新型車に可能性を見出し、プロジェクトの権利を買い取って自社のエントリースポーツカーとして完成させることを決断するのですが、こうして生まれたのが924で、1975年にデビューし、911の下位モデルとして約13年間ラインアップに加えられたという「隠れたヒット商品」です。※フォルクスワーゲンにとって、その時代では不要なクルマであったのかもしれないが、まったく同じ時代にて、それがポルシェにとって必要なクルマであったことは興味深い
中身は“ほぼVW”だったポルシェ924
924はもともとVWとして発売される予定のクルマだったため、「構成部品の多くはVW製のまま(フォルクスワーゲンはこの924をスーパースポーツではなく、安価なスポーツカーとして開発していた)」。
実際のところ、ポルシェのバッジ以外、外装もエンジンも多くがVWのもので構成されていて、とはいえ、手頃な価格と維持費の安さから人気を集め、1988年まで生産が続けられることとなっています(その後継モデルが944で、924の基礎を引き継ぎつつ、パフォーマンスやデザインの面でブラッシュアップされている)。
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ポルシェ924のパフォーマンスは“控えめ”であった
初代924に搭載されたのは、VW製の2.0L直列4気筒エンジン(EA831型)。
アメリカ仕様で最高出力110馬力を発揮し、0-60(0-96km/h)mph加速は約11.2秒というスペックで、当時としても決して速いとは言えないものでしたが、耐久性と燃費の良さという魅力を併せ持ち、これが924のヒットに繋がったのだとも考えられます(まさに時代にマッチしたとしかいいようがない)。※その後1979年にはターボモデルも登場し、最高出力143馬力・0-60mph加速9.3秒まで向上
また、924は水冷エンジンを採用した初のポルシェでもあり、最終的には944から流用された2.5Lエンジンに置き換えられ、出力は約160馬力にも達しています。
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ドライビングフィールは“正統派スポーツカー”
ポルシェはもともと「小型で効率性の良いスポーツカー」を作るべく創業された自動車メーカーでもあり、よってパワーだけがすべてではないことを理解していて、924には前後独立懸架サスペンションを採用し、リアにマウントされた5速MT(トランスアクスルレイアウト)により前後48:52という理想的な重量配分を実現。
ブレーキは前輪ディスク、後輪ドラムという構成です。
さらには空力性能にも力を入れており、当時としては優秀なCd値0.36を実現し、これは直線での最高速度向上に加え、燃費にも貢献することとなります。
924は「手が届くポルシェ」として人気に
1976年にアメリカでデビューした924の販売価格は9,935ドルで、911より6,000ドル以上安価な価格設定を持っており、現在の米国での(インフレ込みの)価値に換算すると約$53,000(約800万円)となるものの、2025年の718ケイマンの新車価格よりも$20,000も安い水準です。
現在の中古市場では、状態の良いものでも8,500ドル前後で購入でき、ターボモデルや後期型の「924 S」であっても13,000ドル程度が相場にとどまるため、ポルシェの世界を体験したい人には「意外と狙い目」のモデルかもしれません。
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ポルシェは911にて長らく”タルガトップ”を提供しており、924にも同様の構想が存在したことが明かされていますが(ポルシェはオープンを好む傾向にあり、カイエンのオープン版が施策されたこともある)これは「ターボモデルをベースにしたプロトタイプ」が実際に製造され、専用キーで脱着できるルーフパネルを装備していたものの、剛性確保のための改修コストが高なることが判明し、最終的には1980年に計画が中止されています(ただしこの経験は後の944カブリオレに活かされる)。
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なお、興味深いのは、その後継とも言える944が1984年に登場した後も、しばらくは924と944とが併売されたこと。
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しかし1988年には生産が終了し、さらには944も1991年に販売が終了され、968へとバトンタッチされることで生涯の幕を閉じています。
924は最速でも最もエキサイティングなポルシェでもありませんでしたが、初めてポルシェを手にする多くの人にとって“夢の入り口”となったことは間違いなく、ポルシェの歴史を語るうえで「外すことができない存在」であることは間違いなさそうですね。
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参照:CARBUZZ