| どう考えても、現在の販売台数を見て「バリエーション追加」と判断する経営者、そしてそれを許す株主がいるとは思えない |
ここしばらく話題に乏しかったホンダ/アキュラNSXですが、ついに待望の「タイプR」、そしてオープン版の「NSXスパイダー」が登場するのでは、との報道。
これによると「NSX タイプR」は2021年秋に登場予定、そしてNSXスパイダーはその2ヶ月後だとされています。
ただ、これについて情報源は不明であり、希望的観測の可能性も高いために今のところ信憑性はナントモといったところですね。
NSXの開発拠点は日本へと移管
ちなみに現在NSXの開発拠点は日本へと移されており、ホンダの公式(NSX30周年記念)コンテンツにもNSX開発責任者として水野聡氏の名が記されています。
そしてこのコンテンツでは現時点でNSX TypeR、NSXスパイダーについては何も触れておらず、かつこのスペシャルコンテンツはNSXの未来というよりも、過去を振り返って「NSXを支えてくれた人への感謝」を伝えることがメインのようにも思われ、やはりなんらかの展開を期待できるようなものは見受けられません。
ホンダはタイプRブランドを安売りしない
なお、ホンダは「タイプR」を安売りする気はなく、「モータースポーツ直結」となるモデルのみに設定するとコメント。
NSXもレースに参戦しているのでモータースポーツ直結ではあるものの、「ハイブリッド」を採用する市販モデルのNSXとはパワートレーンが異なり(ハイブリッドシステムが取り除かれている。パイクスピーク向けは例外として)、よってハイブリッドシステム搭載のままタイプRを名乗るのも、ハイブリッドシステムを取り除いた「NSXタイプR」を開発することも現実的ではない、とも思います。
ただし次期シビック・タイプRは「ハイブリッド4WD」というウワサもあり、もしかするとホンダは「タイプR」の定義を変えてくる可能性もあって、次期シビック・タイプRとともに「ハイブリッド4WD」をコアバリューに据えた展開を行い、その目玉としてNSXタイプRが(ハイブリッド4WDのまま)登場する可能性もゼロではなさそう。
しかしながらNSXの現在の販売状況は芳しくはなく、まっとうな経営者であれば、タイプRやスパイダーをNSXに追加するという判断はまず行わないかもしれません。
加えて、株主がそれを許容するとも思えず、現実的に考えると「タイプRとスパイダーの投入はNO。
なお、日本では今年売れたNSXは9台、アメリカでは70台(2019年では238台)。
全世界だと(多く見積もって)400台だと仮定し、スパイダーを発売してここに250台、タイプRを100台上乗せできたとして、1台あたりの利益を500万円だとすると、「17億5000万円」しか儲からないわけですね。※いずれも多めに計算してある
ホンダは厳しい見通しの2020年度であっても通期で営業利益2000億円を見込みますが、これに対して粗利で17億5000万円というのはビジネスとして規模が小さいとも考えられます(営業利益だと17億5000万円よりもずっと小さな数字になる)。
参考までに、シビック・タイプRの開発拠点は英国から米国へと移される、と報じられており、これについても「NSXの開発拠点が米国のままならまだしも、日本に移された今では、(北米でシビック・タイプRを、日本でNSXタイプRを開発するのは)ムダが大きい」と思わせる部分です。
参照:CARSCOOPS
マセラティはMC20にスパイダーを投入予定
そして話は変わってマセラティ。
MC12以来となるスーパーカー「MC20」を発表していますが、こちらはすでにオープンモデル「MC20スパイダー」が投入されることが確定しています。
欧州の自動車メーカーの場合、多くは長期展望に立ってそのモデルのロードマップを策定し、どの時期に第一弾を発表し、その後いつバリエーションを追加してゆくかということを考えるのが「常」。
よって開発段階から「最大限のバリエーション」が考慮されており、それらを視野に入れた設計がなされることとなっています。
一方、日本の自動車メーカーの場合、バリエーションを最初から決定しおくことは珍しく、「売れたらバリエーションを追加」という様子見戦略を取る場合が多い模様。
たとえばマツダ・ロードスター「RF」はもともと考慮されていなかったモデルであり、そのために「あとからリトラクタブルルーフ化」するに際して相当な苦労があったと言われます。
そしてスープラについても「売れ行きを見て」バリエーション展開を行うとしており(スープラ開発時にはオープン化を前提としていない。しかしZ4はオープンなので、幸いにもオープン化は難しくない)、レクサスLC500「コンバーチブル」も一説によれば「後から企画が発生したモデル(真偽はわからない)」。
ただ、一概に欧州型と日本型のどちらがいいと断じることはできず、というのもBMW 8シリーズのように、シリーズ全体の販売が伸びなければ大きく会社経営を圧迫してしまうため。
BMW8シリーズは、当初から「クーペ」「カブリオレ」「グランクーペ」というボディ形状を合わせて開発し、それらの「M」モデルも投入しています。
つまり当初から「最大の」バリエーションで攻勢をかけてきたということになりますが、いずれも売れ行きが「芳しくない」とも言われ、投じた開発費を回収できない可能性も。
逆に日本型であれば、当初のコストは最小限で済み、しかし後にバリエーションを増やそうと思うと「コストが嵩む」というデメリットがあります。
こういった理由があるために「どちらがどう」という判断はできないということですが、自動車メーカーの経営というのはつくづく大変ということもわかりますね。
参照: Aksyonov Nikita