| 初代NSXはNSXの「X」が示すとおり未知の新しさがあったが、二代目NSXは既知の技術やコンセプトだった |
加えて、二代目NSXはその必然性が希薄で、NSXにしかできず他のスポーツカーにできないことが少なかった
さて、ホンダはつい先日、350台のNSX最終限定モデル「NSX Type S」を発表したところですが、これにて文字通り現行NSXは販売終了ということに。
いかに「もっとも売れないスポーツカー」という称号を頂戴したとはいえ、2016年の発売から数えてわずか5年で生産を終了することになり、あまりにも早い幕切れであったという印象です。
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ただしNSX「第三章」がいつの日か幕を開けるようだ
しかしながら、少し前に開催されたモンタレー・カーウイークにて、アキュラの副社長兼ブランドオフィサーであるジョン・イケダ氏が複数カーメディアに語ったところによると、「NSXには三代目もある」。
現時点では具体的な計画は存在しておらず、しかし同氏によると「我々が社会に対し、何かを問いたいとき、そして何かを示したいときにNSXは誕生する。初代はガソリン車、二代目はハイブリッドだった。そして次も存在する」。
さらにホンダの広報へと直接問合せたカーメディアは以下のとおりホンダのコメントを紹介しています。
「我々は愛好家の会社であり、それが2世代にわたるNSXの誕生につながっています。私たちは、魂を揺さぶるような製品をデザインし、製造するために、常に自らを奮い立たせているのです。将来のある時点で、私たちは限界を超え、極限状態でできることを体現するような車両を作る時が来たと判断するでしょう。その時こそがNSXの登場する理由であり、その瞬間なのです。」
つまり、このコメントを総合するに、ホンダはなんらかの技術的なブレイクスルーがあったり、世のスポーツカーのあり方に疑問を持ち、ホンダとして「解」を示すことができる場合にのみNSXを発売し、ホンダとしての存在感を世に問うということになりそうです(古代ギリシャ劇における”デウス・エクス・マキナ”みたいだな・・・)。
ちなみにこの考え方はポルシェのフラッグシップにも似ていて、ポルシェの場合はカレラGT(ガソリン)、そして918スパイダー(ハイブリッド)といったクルマがそれに該当しますが、ポルシェは918スパイダーの後継モデルについて「技術的な革新がもたらされ、あらゆる面で918スパイダーを超えることができなければ発売しない」と述べており、ポルシェにとってのフラッグシップは常に「未来を示す」ものであって、既存技術の延長であったり常識の範囲内であってはならないということですね。
初代NSXはあらゆる意味で革新的だった
たしかに初代NSXにはホンダのメッセージが詰まっていて、発表当時のキャッチコピーは 「our dreams come true.」、そして「緊張ではない、開放するスポーツだ」 。
ホンダの夢が技術の進歩によって可能となったこと(NSXは世界初のオールアルミモノコック車)、そしてそれまでのスーパーカーは快適性を犠牲にしオーナーに苦行を強いるものであったのに対し、NSXでは「快適にドライブでき、クルマとドライバーの可能性を伸長する」ものであったと思います。
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つまり「乗りにくいのがスーパーカー」「スーパーカーに乗るなら文句を言うな」「文句があるならファミリーカーにでも乗っとけ」というのが当時の風潮ということになりますが(今でも、スポーツカーやスーパーカーについて不満を言うと「レクサスに乗れ」と言われるけど)、きっとホンダとしては、そういった風潮に一石を投じたかったのでしょうね。
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二代目NSXは革新性、メッセージ性が希薄だった
そして2016年に登場した二代目NSXはについては、「ハイブリッドスーパースポーツ」という提案を行ったものの、それはすでに(価格帯は全然違いますが)ポルシェ918スパイダー、ラフェラーリ、マクラーレンP1によって実現されており、採用する構造も「フロントに2モーター、エンジンとトランスミッションとの間に1モーター」というポルシェ918スパイダーと同じもの。
さらに言うなれば、「NSXにできて他のスーパーカーにできないこと」はそれほど多くなく(あったとしても、そこに魅力はない)、逆に「他のスーパーカーにできてNSXにできないこと(そしてそれは”パフォーマンス”というスーパーカーの本質でもある)」のほうが多かったのかもしれません。
そういった意味では、NSXは自動車業界にとっても消費者にとってもインパクトは大きくはなく、そこが「初代と二代目」との決定的な差だとも考えられます。
つまり、初代NSXは限界を超え、新しい世界を切り開き、そこにある可能性を見せてくれたものの、二代目NSXはそうではなかったということですね。
ちなみに「NSX」とは、「New Sportcar」に”未知なるもの”を表す「X」をプラスしたホンダの造語ですが、初代NSXはたしかにまだ誰も見ぬ「X」的要素があったものの、二代目NSXは既知のもので構成されており、未知=Xとは人々の目に映らなかったのかもしれません。
日本においてはNSXの販売体制が不十分だった
そして日本において、二代目NSXは明らかに販売努力が足りず、そもそも購入できるディーラーが少ない、展示車もない、試乗車もない、ファイナンスプランも不十分(残価設定ローンが使えない)、支払いサイトが短い(ほかのスーパーカーは日本に来て登録前に決済すればOKだが、NSXは製造前に決済せねばならない)といった状況ではなかなか買う気にもなれないのでは、と思います。
加えてホンダディーラーの立場からすると、専用工具やブレーキローターを焼く窯を購入し、メカニックの研修を行い、高いコストをかけても「そもそも日本への割当台数が少ないので台数が出ず、こういったコストのモトがとれない」ことが最初からわかっていた模様。
よって、NSXの販売ができる「NSXのパフォーマンスディーラー」としての名乗りをあげる店舗も少なく、ホンダ側から指名されても(NSXを売りたくないと)拒否するケースがあったとも聞いています。
そしてディーラーが「売りたくない」と思うようなクルマに対しては販売現場が熱くなれるはずもなく、そういったムードが消費者にも伝わってしまったのかもしれません。
こういった状況を鑑みるに、3代目NSXが登場するとすれば「誰もがあっと驚く革新性を持ち、そのコンセプトもライバルが今までに提案してこなかったもので、ディーラーが”ぜひ売りたい”と飛びつくような商品であり、消費者にとっても新しい世界を体験させてくれるクルマ」でなくてはならないだろうと考えています。
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参照:The Drive, Motor Trend