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フェラーリのハイブリッド技術の進化|F1「KERS」からラ・フェラーリ、SF90、F80にいたるまでまでの系譜とは

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| フェラーリはハイブリッドシステムによって「より速く、より効率的に」走れるようになっている |

F1での「KERS」から始まったフェラーリのハイブリッド化

フェラーリのハイブリッド技術は、2009年のF1「KERS(運動エネルギー回生システム)」から始まっていますが、このKERSはブレーキング時の運動エネルギーを回収し、バッテリーに蓄えて短時間のブーストを可能にするテクノロジーです。

この技術はすぐに市販車開発へ応用され、2010年のジュネーブ・モーターショーでは「599 Hy-Kers」コンセプトが登場。

7速デュアルクラッチ後部に直結した高電圧三相モーターが減速エネルギーを回収し、フロア下のリチウムイオンバッテリーを充電するというロジックを持ち、CO₂排出量を35%削減しつつ、パフォーマンス向上の可能性を探るという役割が課されています。

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ラ・フェラーリ:F1直系のハイブリッドスーパーカー

その後、2013年に発表された「ラ・フェラーリ」は、F1由来のハイブリッドシステムを搭載した初のフェラーリ市販モデル。

自然吸気6.2L V12(800cv)に163cvのエレクトリックモーターを組み合わせ、総出力963cvを実現していますが、内燃機関と電気モーターのシームレスな統合により、70〜120km/h加速はわずか”3.4秒”と、中間加速においてはエンツォフェラーリの”半分以下”のタイムを記録しています。

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このレスポンスの速さは「まさにF1レベル」ともいうべきもので、ハイパーカーの基準を書き換えた存在であるといっても過言ではないかもしれません。

なお、フィオラノ・サーキットのラップタイムはエンツォフェラーリが1分22秒3、ラ・フェラーリでは1分19秒9。

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SF90ストラダーレ:フェラーリ初のプラグインハイブリッド

「SF90ストラダーレ」は、フェラーリ初のPHEV(プラグインハイブリッド)として2019年に登場。

26kmまでのエレクトリックモードでの走行が可能で、3基のエレクトリックモーター(フロントに2つ、トランスミッションにひとつ、合計217馬力)がV8ツインターボ(780馬力)と組み合わさって総出力1,000馬力を発揮することに。

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フェラーリにとってのハイブリッドとは「付加物」ではなく「必要な構成要件」である

ただしSF90ストラダーレは「単にV8ミドシップモデルにエレクトリックモーターを追加しただけ」ではなく、「低速とV8エンジンの低回転域ではエレクトリックモーターを活用し」、高速域や高回転域ではV8エンジンを最大限に活かすという「ハイブリッドシステムありき」の設計が導入されています。

これによってV8エンジンの最大トルク発生回転数が引き上げられるなど、「V8エンジン単体では難しかったこと」が達成されており、ここでフェラーリのスポーツカーは新しい章へと歩みを進めたのだと考えていいのかもしれません。

さらに注目すべきは、「4WD」ということ、そして「前輪をエレクトリックモーターにて駆動すること」。

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フロントアクスルのトルクベクタリングや、電動トラクションコントロールによる駆動力制御など、ソフトウェア面でも最先端の技術が投入され、これによって「前輪の強力なトルクをもって、車体を(コーナリング時に)引っ張る」という今までにない走り方が可能となり、事実としてフィオラノサーキットでのラップタイムは、公道走行可能な市販車としては最速の1分18秒709を記録しています。※ラフェラーリよりも1秒以上速い

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なお、このタイムを更新したのはSF90 XXストラダーレの1分17秒309ですが、つまりフィオラノで最も速く走れる現行モデルは「ハイブリッド+4WD」ということを意味し、これもやはり「時代の移り変わり」を示す一つの事実なのかもしれません。

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296GTB:V6ターボと電動化の融合

2021年登場の「296GTB」は、2.9L V6ツインターボ(663馬力)と167馬力を発生するエレクトリックモーターを組み合わせることで総出力830cvを発揮。

このV6エンジンは120°バンク角レイアウトにより低重心化と重量バランスを改善していますが、エンジン全長を(V8に比較して)短くすることでシート後方にバッテリーを積むスペースを生み出すことに。※その意味では、SF90ストラダーレの思想をさらに推し進めたものだと考えていい

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フェラーリ296GTBがやってきて1ヶ月。ハイブリッドシステムは現代のスポーツカーにおける「救世主」であり、これほど誤解されているシステムも他にない

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このレイアウトは296GTBの重量配分をさらに改善するとともに、かつホイールベースを短縮することでさらなる旋回性能の向上をもたらしています。

つまり296GTBもまた「ハイブリッドありき」「ハイブリッド化の恩恵が最大限に享受できる」設計がなされているスポーツカーということになりますが(もちろんエンジン特性もエレクトリックモーターのアシストを前提に調整されている)、フィオラノ・サーキットのタイムはF8トリブートの1分22秒5に対し、296GTBでは1.5秒速い1分21秒0をマークしています。

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さらには25mまでをエレクトリックモーターのみ(eDrive)で走行でき、バック(リバース)もエレクトリックモーターが担当するなど「住宅地での扱いやすさ」が大幅に向上していて、つまるところ日常性も大幅に優れたモデルとなっているのですが、その反面「バッテリーの充電」「バッテリーの寿命」に関する問題が「非ハイブリッドモデル」に比較して障壁として立ちはだかることとなったのもまた事実。

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フェラーリ296GTB雑感。「ハイブリッドはスーパーカーの可能性と楽しみを伸長させる」。ボクがそう考える理由とは

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これが「複数の車両を所有し、それぞれのクルマに乗る機会が少ないオーナー」「タワーマンションなどに住み、充電環境を確保できないオーナー」を購入から遠ざけているうえ、ここに「(エレクトリックモーター駆動用の)バッテリーが劣化した際の交換コストの高さ」も絡むことで”PHEVフェラーリ”の人気化をはばんでいるのだとも考えられます。※フェラーリは既存ハイブリッドモデルに最新バッテリーをレトロフィット可能にし、全モデルに8年保証を付与。これにより、性能向上と長期的な信頼性を両立している

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ル・マン覇者499PとF80ハイパーカー

耐久レースにおいてもフェラーリはハイブリッドで成功を収め、2023年のル・マンでは「499P」が優勝。

3.0L V6ツインターボ(680馬力)+フロントモーター(272馬力)という構成はSF90ストラダーレから引き継がれたもので、2025年に至るまでの”ルマン3連覇”によってその構成が持つ有用性が立証されています。

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そしてこのパッケージは最新ハイパーカー「F80」へと受け継がれることとなり、この意味においてもF80は「2009年からはじまったフェラーリのハイブリッドの歴史における集大成」だと考えてよく、創業80周年という節目、そして現在のフェラーリの成功を示する「これ以上の方法はない」存在。

今週末はもうル・マン!フェラーリが50年ぶりに王座を狙う「499P」の戦闘力を向上させる「ERS」「4WD」について自ら解説【動画】
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| フェラーリはLMDh規定を利用せず自身でマシンとハイブリッドシステムを開発するという手段に出たが | いまのところ、参戦した他のレースを見るに「ル・マンの優勝を狙えるポテンシャルを持っている」と考 ...

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このF80は総出力1,200cv(内燃エンジン900馬力+モーター300馬力)を誇り、0-100km/h加速2.1秒、最高速度350km/hという破格のパフォーマンスを実現していますが、さらにはF1由来のMGU-Kや軽量高効率モーター、カーボン製バッテリーケースなど、最新のハイブリッド技術が惜しみなく投入され、現代のフェラーリにおける「成功法則」をすべて注ぎ込んだ「全部入り」的存在だとも考えられます。

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Image:Ferrari

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参照:Ferrari

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