
| はじめに:記録的売上と予想外の利益未達 |
今後の「明るい材料」も欠ける決算発表でもある
電気自動車(EV)業界の巨人、テスラが2025年第3四半期の決算を発表。
今回の決算は売上高が市場予想を大幅に上回り、納車台数も過去最高を記録するという力強い結果なりましたが、しかしその一方で一株当たり利益(EPS)はアナリスト予想を下回るという「記録的な成長の裏で利益が圧迫されている」実態が浮き彫りになる混合した内容となっています。
Key Fact:テスラ Q3(2025年7月〜9月期)の主要データ
そこで今回テスラが発表した2025年第3四半期の決算内容を見てみましょう。
項目 | 実績値 | 市場予想(FactSet) | 前年同期比(Revenue) | 前期比(Revenue) |
売上高 (Revenues) | $280.9億 | $265.0億 | 約12%増 | 24.8%増 |
一株当たり利益 (EPS) | $0.50 | $0.56 | 予想未達 | - |
納車台数 | 497,000台超 | 456,000台 | 過去最高 | - |
1. 納車台数と売上高は「歴史的な高水準」を達成
テスラは四半期の納車台数として過去最高の約49万7,000台超を報告。
これに伴い売上高は280.9億ドルとなり、ウォール街の予測(265億ドル)を大きく上回ることに。
この背景にあるのはEV税額控除の失効を控えた駆け込み需要だと見られ、実需をあらわしたものではないと考えられるため、第4四半期において今回の販売台数を超えることは「難しい」のかもしれません。
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2. アナリストの期待に届かなかった「利益」
売上が好調だったにもかかわらず、一株当たり利益(EPS)は0.50ドルと、アナリストの予想であった0.56ドルを下回る結果となっています。
この利益の未達が投資家に失望感を与え、発表後の時間外取引でテスラ株は1.5%超(情報によっては4%)下落し、この背景としては車両価格の値下げ競争や、トランプ政権による新たな関税措置などが重なり、複合的な要因によって利益率が圧迫されたことが挙げられます。※株価は単なる売上高ではなく、利益の伸びや利益率を重視する。テスラが過去の四半期で示してきた高い利益率が維持できないことへの懸念が、市場の反応につながっているのだと考えられる
なぜ利益が減る?テスラを襲う「三重苦」
テスラが利益を確保しづらくなっている要因は複数あります。
1. 激化するEV市場の競争
テスラの販売が振るわなかったとされるヨーロッパ市場では、フォルクスワーゲン(VW)や中国のBYDといった競合他社がEVのラインナップを増やし、激しい価格競争が起きている市場。
これはテスラの「値引き」を誘発し、結果として利益率の低下につながります。
2. EV税制優遇措置の終了
トランプ政権が10月に連邦EV税制優遇措置を廃止したことで、これまでEV購入者に最大$7,500提供されていた補助金がなくなっており、イーロン・マスクCEOは以前から「今後数四半期は苦戦する可能性がある」と述べており、この影響は避けられないものと見られます。
もちろんテスラはこれに対応する手段として廉価版モデルYを投入しているものの、この価格は「税制優遇の廃止分をカバーできる」ものではなく、かつ販売単価も低いため、販売台数や利益額、利益率を向上させる有効策にはなりえないのかもしれません。
3. 「ブランド力」の低下懸念(関連情報)
経営コンサルティング会社、インターブランドのグローバルブランドランキング(2025年)で、テスラは前年の12位から25位に大きく順位を落としています。
インターブランドは、その理由として「EV競争の激化」に加え、「製品イノベーションの不足」と「イーロン・マスク氏の政治的傾倒」を挙げていますが、テスラが単なる「破壊的な勢力」から、他の自動車メーカー(BMW、メルセデス・ベンツ、トヨタ)よりも下の順位になったことは、ブランド戦略の見直しを迫る警鐘であるともと言え、テスラの相対的なポジションが下がったことを裏付けています。
Q3 Earnings Call https://t.co/RTl7TcEToz
— Tesla (@Tesla) October 22, 2025
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今後の焦点:「ロボタクシー」と「低価格モデル」
今回の決算が「期待した内容ではなかった」といえど、テスラが魅力的な投資先であることに変わりはなく、投資家はテスラの次なる成長の柱に注目しています。
- ロボタクシー計画の進捗: 投資家からの質問で最も関心が高かったのは、テキサス州やカリフォルニア州でのロボタクシーサービスの具体的な展開であった
- 低価格モデルの生産: 今月初めに発表された低価格のModel 3やModel Yの生産・販売状況も焦点となり、これは、競争の激しい市場で再びテスラが優位に立つための重要な戦略となりうる
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今回の決算は、テスラが「大量納車による成長フェーズ」から「利益率を維持しつつ、次世代技術(AI、ロボタクシー)への転換を果たすフェーズ」「安価なEVを販売しても利益を確保できる体制」へと移行する上での大きな試練に直面していることを示唆しており、その結果が出るまでの「いくつかの四半期」では、イーロン・マスクCEOがいう通り「厳しい状況」が続くこととなりそうですね。
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参照:Forbes